息子のイライラはエスカレートしていった。物に当たるだけではなく、物欲が増していく。幼い頃から、「あれが欲しい、これが欲しい」と駄々をこねたことが一度もなく、それどころか、おじいちゃん・おばあちゃんと外出した時は、「これママが好きだから」と、私の好きな食べ物をお土産に買って帰る子だった。


リュックが欲しい、財布が欲しい、服が欲しい、中でもスマホとお金にはかなり執着した。当時の私の職場は業績がかなり悪く、職場には、税務署や取引先からの支払いの督促電話が1日鳴り響く。私の給料もたびたび止まった。そんな状態だったので、当然生活が苦しい。今までも私一人の収入でギリギリやってきたので、貯金も全くない。そんな中、日増しに強くなる息子の物欲に悩まされる毎日だった。


「スマホ買って」


毎日毎日こればかりだった。給料が出ないので、カードの支払いも遅れてばかりだった。私名義では分割払いの契約が出来ない。そういった事情を延々と話しても、「スマホ買って」の一点張りだった。


なんで分かってくれないんだろう…。無理なものは無理なのに…。毎日毎日、「買って」「買えない」の平行線だったが、息子は次第に物に当たっていった。しかも、スマホ騒ぎが始まるのは大抵夜遅く。私が「買えない」と返事をするたびに、壁やドアを蹴飛ばし、叩き続ける。冷たい表情でじっと私を見ながら叩き続ける息子は、私の知っている息子とは似ても似つかないほど不気味だった。


うちは賃貸のため、夜中にそんなことをすれば、近所に音が鳴り響いた。息子が壁を叩くたびに、斜め下の部屋からは「うるさい」と言わんばかりに叩き返す音がする。そんな時は、息子を落ち着かせるためにドライブに連れ出した。まるで、泣き止まない赤ちゃんを車に乗せ、眠るまでぐるぐる走り続ける状態だった。


この子は赤ちゃんの頃から手が掛からなかった。もしかしたら、赤ちゃんに返って甘えたかったのかな…。あれから5年半たった今になってそう思う。