渡邉said

菅井「え、今日てち来ないんですか?」

マネージャー「うん、急に明日の打ち合わせが入っちゃったらしくて」

守屋「じゃあ予防接種は受けないってことですか?」

マネージャー「そうなるかなー、あとは個人で行ってもらうしか…」

年一回の一斉予防接種の日。

雑誌の取材を終えて来るはずだったてちが来れなくなったという。

菅井「行ってくれるかな…」

渡邉「まずてちに行く時間がない気がする」

菅井「確かに…」

行こうと言ったら多少は渋られるかもしれないが、一押しすれば行ってくれるだろう。

問題は予防接種に行く時間自体があるかどうか。

大人数のグループ。

てちはそのなかでも最も多忙といっても過言ではない。

一人インフルエンザにかかってしまったら大変なことになるし、なにより予防接種をしないと免疫がないから症状が悪化してしまう。

本人も受けなきゃいけないということは重々承知のはず。

マネージャー「おいおい本人と相談して決めよう」

そんなことを話したのが先月の初め。

いよいよ十二月に入り、年末を感じられるようになった。

幸いにも、まだメンバーは誰もインフルエンザにかかっていない。

そんなとき_



コンコンッ

渡邉「はーい」

ある日の夕方。

明日はオフのため明日は遊びに行こうか、なんて考えているときに誰かが訪ねてきた。

ガチャ

渡邉「!てち」

平手「ゴホッ…急にごめん」

渡邉「いや大丈夫、どうしたの?」

平手「これ…ゴホッ、スタッフさんから預かった」

渡邉「ああ、ありがとう…風邪?」

平手「どうだろう?熱はないと思うんだけど、咳が止まらなくて」

渡邉「そっか、お大事に」

てちはマスクをしていた。

顔が少し赤くなっているだけで全然苦しそうじゃない。

渡邉「早めに寝なよ?」

平手「うん、もう寝る」

渡邉「じゃ、おやすみ」

平手「おやすみなさい」

てちから渡されたスタッフさんからの紙は、明後日の打ち合わせの資料だった。

三枚ほどの資料をペラペラ捲っていたら、間にてちの資料が挟まっていた。
 
まだそれほど時間は経ってないし、さすがにまだ寝てないだろう。

返しに行くことにした。

コンコンッ

平手「はーい」

ガチャ

平手「理佐、どうしたの?」

渡邉「これ、さっきのに挟まってたから」

平手「あ、ごめん、うっかりしてた…ゴホッ」

渡邉「ううん」

平手「わざわざありがと_?」

なんとなく気になり、てちの額に手を当てた。

渡邉「熱くない?」

平手「嘘?」

渡邉「熱いよ、熱計ってみて」

平手「体温計持ってない…」

渡邉「持ってくるから、寝てて」



ピピピピピッピピピピピッ…

渡邉「…」

平手「何度?」

渡邉「38.5」

平手「…」

渡邉「…」

平手「嘘」

渡邉「嘘ついてどうするの」

平手「そんなにあるの?」

渡邉「しんどくない?」

平手「全然」

渡邉「…とりあえず、病院行こう」

今からなら、外来にギリギリ間に合う病院があるはず。

インフルエンザの可能性がない訳じゃないしね。

…少し遠いけど。

マネージャーさんにお願いして車を出してもらうことになった。

もちろん、マスクをつけた。

渡邉「寒くない?」

平手「大丈夫…」

熱があることを自覚したからか、少し息が荒い気がする。

改めて額を触ってみると、さっきよりも熱く感じた。

抱き寄せて、私のコートをかけた。

気休めかもしれないけど、なにもないよりはいいだろう。

マネージャー「着いた、先に受付してて」

渡邉「はい」

てちを支えながら歩いて受付を済ませた。

平手「理佐…寒いよ…」

診察までの待ち時間で熱が上がってきてしまったらしい。

寄りかかってくるてちの身体を支えながら擦ってあげるが、なかなか震えが収まらない。

渡邉「もう少しだからね」



予約していなかったが、受付時間ギリギリだったので呼ばれるまでにそんなに時間はかからなかった。

医師「んー、熱は…高いですね…インフルエンザの検査してみましょうか」

渡邉「お願いします」

医師「予防接種は受けました?」

平手「受けてないです…」

医師「…なるほど、ちなみにお連れの方は?」

渡邉「受けました」

医師「分かりました、では隣の処置室にどうぞ」

やっぱり受けてなかったのか…

検査が終わりまた待合室で待っていると、「んー…」と唸りながらもたれ掛かってきた。

もう既に辛そうなのに、まだ酷くなるかもしれない、と。

看護師「平手さーん、お入りください」

渡邉「行こ、動ける?」

平手「うん…」

検査結果は思ったよりも早く出た。

医師「インフルエンザB型ですね」

渡邉「B型…」

医師「これから熱が上がってくるかもしれません、しっかりご飯を食べてしっかり寝てくださいね、水分補給も忘れずに」

平手「…はい」



平手「すー…」

帰りの車の中では、さすがに疲労と倦怠感に勝てなかったらしい。

私の膝を枕にして寝ている。

さらには私の腰に腕を巻き付けている。

見下ろすと、眉間に皺が寄っているのが見える。

平手「んん…」

火照っている頬に手を当ててみると少し唸った。

数時間前にケロッとしていたのが嘘のように苦しそう。

マネージャー「理佐、コンビニ寄るけど何かいる?」

渡邉「そうですね…」

スポーツドリンクやゼリーを買った方がいい気がする。

でも、今腰に巻き付いているこの子を起こしたくない。

ベットに寝かせてから買いに来ればいいか、何て思っていると、

マネージャー「私行ってくるから、何が欲しい?」

渡邉「え、でも…」

マネージャー「いいから、ね?」

渡邉「すみません、じゃあスポーツドリンクとゼリーを…」

マネージャー「分かった、すぐ戻るから」

本当に、マネージャーさんには頭が上がらない。

私達は、本当に周りの人たちに恵まれていると実感する。

マネージャー「お待たせー、はいこれ」

渡邉「ありがとうございます」

マネージャーさんは言った通りすぐに戻ってきた。

しかも、袋を覗くと冷えピタまで追加してくれている。

あとでお礼しなきゃ…



平手「理佐…」

渡邉「ん?」

平手「手…握って…」

渡邉「いいよ」

帰って来てすぐベットに横になったがなかなか寝付けないらしい。

寂しいからか、普段より甘えたが進行している。

姿勢を変えようと腰を上げただけで「やだ」と腕を掴んでくるほど。

右手でてちの手を握って、左手でてちの頭を撫でる。

平手「ん…うー…痛いー…」

関節が痛むみたい。

擦ってあげるけど、表情は歪んだまま。

まるで別の病気じゃないかと疑いたくなるほどの苦しみ様。

予防接種を受けなかっただけでこんなにも酷くなるなんて…



翌日。

熱よりも、関節痛よりも、倦怠感よりも厄介なことが発覚した。

渡邉「てち、少しでいいから、ね?」

平手「やだ…」

食欲不振。

ゼリーすらも頑なに食べようとしない。

渡邉「お願い」

平手「食べたくない…」

昨日の夜も何も食べていないし、そろそろ食べないと心配だ。

渡邉「ね、てち?」

平手「やだー…」

渡邉「てち…」

本当はこんなことしたくない。

でもこれ以上悪化させたくない。

意を決しててちの背中とベットの間に腕を差し込んでゆっくり起き上がらせる。

平手「っ…」

渡邉「ごめんね…」

目眩がするのだろう。

ギュッと目を瞑って耐えている。

てちが寝ていたところに腰を掛けて、背中を私にもたれ掛からせる。

その状態で持っていたお粥を一すくいてちの口元に持っていく。

平手「やだ…」

渡邉「お願い、少しでいいから…」

薬を飲まなくちゃいけないし、何よりなんでもいいから栄養を摂ってほしい。

平手「…」

しばらくすると、口元のお粥を一口食べた。

渡邉「まだ食べれそう?」

平手「うん…」

渡邉「無理そうだったら言って?」

ゆっくり、少しずつ、てちが飲み込むのを待ちながら食べさせる。

少し強引だったけど、食べてくれて安心した。

平手「もう…」

渡邉「分かった、ごめんね、無理矢理で」

平手「ううん、ありがと…」

薬を飲んだ後、てちはすぐ寝てしまった。

私の手を握ってしまったまま_



ピピピピピッピピピピピッ…

渡邉「37.5、下がってきたね」

平手「うん…」

あれから二日経った。

やっと38度台を切って、関節痛も無くなったみたい。

仕事復帰は熱が完全に下がってから二日経過だったかな?

だからもう少し先になるけど、これで一安心。

渡邉「何か欲しいものある?買ってくるよ」

平手「ううん、いらない…」

渡邉「わっ…」

腰かけていたベットから立ち上がろうとすると、腰に巻き付いて阻止してきた。

平手「…もう少し、このままでいさせて…?」

熱は下がってきたけど、まだ甘えていたいみたい。

渡邉「いいよ」

復帰すればまた怒涛のスケジュールが待っている。

今はそんなこと考えずに、ゆっくり休んで欲しいな。



渡邉「…ふーちゃんにこの体勢自慢しよ」









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いつも読んでくださってありがとうございます!
    まず、遅くなってしまい申し訳ありません。
すっかり年末になりました。
来年からはやっと本格的に投稿頻度を上げる目処がたちました。
上げる上げる詐欺をしていたことは自覚しています。
    そこで、質問です。
短いけど頻繁に投稿されるのと長いけど時々投稿されるのだったらどちらがいいでしょうか?
例えば、「さらっと読める小説が毎日or二日に一回ペースで投稿」か「長めが一週間に一回のペースで投稿」だったらどちらがいいですか?
コメントお待ちしております。
(さすがに今の投稿頻度はあり得ないと思っていますので改善しようと思っています)
それでは、次回も是非読んでください!
これからもよろしくお願いします!