ポスターを信じなくて良かった。想像していたグロテスクさなど無いに等しく感じました。

誰も知らない甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)名前は読めないし、描く女性の表情はちょっと怪しげで微妙、ご本人は今でいうバリバリのLGBTで女装癖があり、芸者姿の自撮り写真に陶酔しまくっている変わったおじさん。そして喘息により友人(?)宅で亡くなったとあります。回顧展は先月から開催されていたのですが、実は行こうかずっと迷っていました。ところが先日、お客様から「女性は瞬間、こういう表情をする時がある」と教えていただき、当時の映画の衣装の展示もあると知り、怖いもの見たさに訪れました。

 

展覧会パンフレット

 

写真と実物の絵は全く異なるのです。絵全体が迫力にあふれ、こういうジャンルもあるかもと思ってしまうような作品の数々。

生理的に受け付けないかたもいらっしゃるかとは思いますが、見る価値は十分ありますね。

 

入場チケット

 

中途で絵画から映画の衣装と時代考証に転向し、名監督の溝口健二から「デザインが上品」と褒められ、大映、東映の時代劇作品になくてはならないメンバーになります。名作「雨月物語」の衣装もありました。

 

そして当時の作品ポスターに並べて、創作した衣装が数多く展示されています。市川右太衛門の「旗本退屈男」シリーズでは、大胆な構図の衣装が、右太衛門丈の端正ではっきりしたお顔立ちによく釣り合っていました。また、仕事柄、絹の衣装を見るとどうしてもその染めや刺繍、箔加工の技術に見入ってしまうのですが、デザイン、配色、バランスが整った良い仕事がしてありました。金箔ひとつとっても、制作から半世紀はゆうに超えているのに変色していない、つまり上質な純度の高い品を使っています。目の法楽になりました。

 

鑑賞に先入観は禁物、今回の訪問で再認識しました。おすすめの展覧会です