1/8の48回転ハマり。
そのハマりの前も、中ハマりを連続で喰らっていて、大当たり確率は2/82となっていた。
事件の後で金銭的余裕が無かった俺は焦り、この理不尽なハマりにあまりにもムカつき、連続でぶっ叩いてVへねじ込みデジタルを回す暴挙に出た。
一番釘の良い台を打っているのに何でこんなに負けなきゃいけない?
今までこんなことは無かった。運が悪いなんて認めたくない。
何か別のモノのせいにしたくて
「やろうと思えばいくらでもやれんだよ!」
みたいな440度ねじ曲がった思考回路で悪意を燃やしてしていたのだ。
当てたいというよりストレスのはけ口が目の前の台だっただけだ。なんたる幼稚性。
無理やりねじ込み続けた8回転目、56回転目のデジタルがハズれた時ももちろん台パン。
顔見知りの店員が流石に見かねたのか肩を叩いた。
「ちょっと外にいいかな?」
「はい」
店員の後ろを歩き店外に出る。
自動ドアが閉まると世界から音が消えた。
空は抜けるように高く澄んでいて、オレンジを帯びた陽光がきらきらとアスファルトに染み込んでいる。
俺は光の届かない仕切りの陰に立たされ店員の言葉を待つ。
「さすがに良くないよ。悔しいのはわかるけどダメだよ」
「はいすみません」
「…じゃあ気を付けてね」
「はい」
反省はしていたが、ホールに戻る道中でよく分からない、ドス黒いもやもやが足元から這い上がって来て、視界が赤みを帯びぼやけた。
それを振り払うように出口に並ぶ鉄製のロッカーを「バン!!!」と叩く。
これが良くなかった。
「ちょっとちょっと!それはダメだよ!!」
マイクで何か話す店員。
「事務所にいいかな」
二人の店員の両脇に抱えられ、初めて事務所に連行されることになった。
カウンター横にある重そうな扉が開かれる。
「入って」
落ち着いた声が聞こえて来て、事の重大さが皮膚を刺し始める。
部屋の中にはモニターがたくさん並んでいて、その前に置かれた黒い椅子に店長らしき人が座っていた。
その前に立たされると、地に付いているはずの足はそこに無いように感じ、視界の隅が黒くなった。
キーンという音がずっと耳の奥で鳴っている。
「どうしたの?」
「当たらな過ぎてムカついてしまって」
「それはわかるけど大人なんだから抑えないと」
「はい、すみません」
「謝れば良いってもんじゃないんだけど分かってるの??」
「はい、この間知り合いに全ての金を盗まれて、今は金がなくて、身寄りもないし頼れる人もいないし、そんな時だったんで余計に…」
自分の口から発される言葉に情けなくなって俯くと、零れた涙が綺麗に磨かれた床に落ちて撥ねた。
少しパニックになったのかその後のやり取りをあまり覚えていない。
多分、ただただ言い訳を並べた。
「事情は分かったけど、慈善事業でやってるわけじゃないからね」
「はい、すみません」
「…以後気を付けてね。次は無いよ」
「はい、気を付けます」
「じゃあ戻っていいよ」
「失礼します…」
血の気も戻らないままふらふらと席に戻る。
通りがかりの台で打っていた坂本さんが心配そうに見上げていた。
「残りの上皿打ったら帰ります」とだけ伝えしょんぼりしながら残りの玉を打ち出した。
カチャンカチャンという音だけが妙に耳に響く。
すぐに役物に飛び込んだ玉がくるくるとバレリーナの周りを廻り、そっとVに落ちる。
数秒後、デジタルが回りはじめ、あろうことか当たりランプに止まった。止まってしまった。
恥ずかしさで消え入りそうな気持ちで権利穴に玉を入れ、右打ちし、無表情で大当たりを消化する。
3回転のチャンスタイムを消化して帰ろう。
意に反してまたすぐに当たりに止まるランプ。
誰に言うでもなく、すみませんと呟いて大当たりを消化。
戻って大当たりを5回繰り返してようやくチャンスタイムが終わった。
気づけば6万負けがほぼ回収されていたが、心は全く晴れなかった。
ある意味拷問であり公開処刑であった。
「見ろよみっともない」
そんな声がどこからか聞こえた気がした。
それが頭の中で響いてはぽろぽろと自尊心めいたメッキを剥がしていく。
何がパチプロだ。
お前は負け犬だ。
気づけば家にいて、何も口にせずただただ眠った。