瓶の中には確かに何かが入っている。
暑い真夏の夕方だ。空気は湿気を含み、それだけで苛立ちが募る。
人々が集まり瓶の中に入っているものが何か確かめようとしている。
いったい瓶の中にはなにがあるのか……


そんな物語がある。



杁中の秋これまでに読んだもっともいなや話は、「蛸の足」である。これは怖いというよりも生理的嫌悪感のある物語だ。


怖いと感じるのは一部の例外を除いてこれは実話ですという触れ込みの物語ではない。完全なフィクションであるとわかっている物語のなかに恐ろしいものを感じる。

これは恐ろしいと思った映画の場面がある。息子が母親に父親殺しを告白する場面だ。

母親と息子はぽつんと立っている枝振りのいい木を見つめている。息子が父親殺しを告白したとき、その木が激しく揺れる。風かもしれない。風ではないかもしれない。

父親の死体はその木の根元に埋められている。

杁中の秋