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ありきたりな失恋は、舞台には向かない。

2年前に出会った笑顔の素敵な女性。

当時から彼女には付き合ってる男がいて、2人ともよく笑ういいカップルだなと思っていた。

僕は彼女の恋愛を応援した。
彼女が笑顔でいる事が何よりも大事だと思った。

僕が応援すると彼女は素直に喜んでくれた。
僕は時々、あからさまに彼女への好意をみせてしまうことがあった。
そんなときにも彼女は素直に喜んでくれた。

悪質な程に無邪気な彼女だった。

出会って2年、彼女が別れたらしいという噂を聞いた。

僕はこの2年間の想いを伝えようと決意した。

中々予定が合わず、実際に会えたのはその決意から一ヶ月後。
話題の舞台を2人で観に行くことになった。

終演後、劇場近くのレストラン。

2人ともすっかり引き込まれてしまうぐらい面白い演劇だったために、話題はほとんど舞台の話が中心になってしまった。
目の前で興奮気味に感動を語る彼女。
その光景は僕にとってすごく幸せなものだった。

みるみるうちに時間が過ぎた。
早く本題にうつらないと。
意識をすると緊張してきた。

まずは彼氏と別れた事を彼女の口から聞き出さなきゃいけない。

そしてその流れで一気に告白する。

そのきっかけは不意に彼女がくれた。

「この後ちょっと予定があって、11時前ぐらいには駅に戻らなきゃいけないんです。」

ここしかない。

「⚪︎⚪︎君と会うの?」

少し声が震えた。

「いえ、実は⚪︎⚪︎君とは二ヶ月ぐらい前にお別れしたんです。」

やっと聞き出した。ここから告白につなげる。

と、思った瞬間ふとよぎる疑問。

「誰と、、会うの?」

「ちょっと約束があって、、」

鼓動が速まる。

「新しい彼氏?」

精一杯の軽い口調。

「いえ、昔からの友達です。けど、、」

「けど?」

「向こうから言ってくれていて、今夜ちゃんとお話して、たぶん、そうなると思います。」

そういって微笑む彼女をみて、僕の視界は揺らいだ。

平静を装え。

出て来たのは、下手な笑顔と心にもない言葉。

「へぇ、そうなんだ。よかったじゃん。」

彼女が笑顔でいる事が何よりも大事だと思った。

目の前には、僕とは違う、素直で完璧で悪魔みたいな天使の笑顔。

結局、一度も舞台に上がることができなかった僕の片思いには、閉じる幕さえも用意されていなかった。


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木曜の夜に、浮気の話。

仕事終わりの待ち合わせで夕飯を食べ、そのまま彼女が家に来ている。

「エリ、今日は泊まってくの?」

「うん、ごめんねー。」

「それ謝るとこじゃないよ。」

彼女はにかっと笑う。

「そっか、ありがとうだ。」

「そうそう。こちらこそ。」

今日はなんだか機嫌がよさそうだ。
さっき入ったベトナム料理の店が、想像以上に美味しかったというのもあるんだろう。

と、思っていたら急に真顔。

「ねえ、シュウ君?」

「うん?」

「アナタ浮気してるでしょ?」

「はい?してないよ。」

全く身に覚えもないし、そもそもご機嫌だった彼女が急にする話題としてはツッコミどころが多すぎる。

次の言葉をまっていたら、彼女はまた急ににかっと笑った。

「浮気の見破り方ってのをネットで見かけてさ、今やってみたの。」

そういうことか。
彼女の長所でたまに短所になるのが、好奇心の旺盛さ。

「それで?見破れた?」

「うん。どうやらシュウ君は浮気してないみたいです。」

「うん。してない。」

「浮気してるオトコって、浮気してるか訊かれたら、「なんで?」って答えるんだって。」

「おれ、なんて答えた?」

彼女はまた笑顔をみせる。

「してないよって。」

「おお、セーフだ。」

「浮気してるオトコは、なにか証拠つかまれたのかもって思ってつい質問しちゃうんだってさ。」

「確かにそれあるかもね。でもそうゆうのをおれで検証するのはやめて貰いたいな。」

「ごめんね。」

再犯確実の笑顔での謝罪。今日は本当にご機嫌だ。

「それでエリは浮気してるの?」

「え?なんで?」

と、真顔。

「え?してるの?」

「え?なんで??」

少し間があいて、僕らは同時に吹き出した。


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~ワインを呑むとき、タバコは消すもの~

二人で退屈な純愛映画を観た後に入ったカフェ。

タバコの煙を燻らせながら彼は言う。

「そういやさ、付き合いはじめの頃はあんまり好きっていってくれなかったよね。」

彼の手からタバコを取り上げて、煙を吸い込む。

「そこまで好きってわけでもなかったからね。」

彼は少し目を見開き、驚いたような表情をつくったあとに、優しく笑う。

「ひどいな。泣いていい?」

そういって私からタバコを奪い返し、口にくわえる。

「今は好きよ。とても。」

「それはよかった。とても。」

店員がグラスのワインを運んでくる。

「ありがとうございます。」

そう言って彼は、タバコを消しグラスを手にする。

丁寧なオトコ。

「で、そんなに好きでもなかったってどういうこと?」

最後に吸い込んでいたんだろう。
煙を吐き出して彼は尋ねた。

「私ね。まだよく知らない相手に好きって言ったり、言われたりするとさ、それが熱ければ熱いほど冷めちゃうんだよね。よく知りもしないくせにって。さっきの映画にもそういうシーンがあったけど、ああゆうのみると冷めちゃうよね。」

「へぇ。でもたぶんあのシーン、映画的には見せ場なのに。」

彼は優しい表情のままで、わたしはその独特の余裕にも惹かれている。

「だったらさ、どうしておれとは付き合ったの?結構早い段階から好意は見せちゃってたはずだけど。」

「そうね。でも私しか見えないっていう盲目的な感じでもなかったでしょ?」

「そう?まあ、確かに視野は広い方だと思うけど。」

ずれているのか的確なのかよくわからないコメントも彼の魅力。

「なんだか勝手に燃え上がってるのとは違う不思議な温度感があって、そんなあなたと接するうちに、もっとあなたの事を知りたいって思うようになったんだと思う。」

彼は少し嬉しそうに笑う。

「あなたの事知りたいって響き、なんだかエロくていいね。知ってみた結果はどう?」

「言ったじゃない。とても好き。」

「嬉しいな。ありがとう。」

「結果じゃなくて現状の話だけど。」

「それわざわざ言わなくてもよくない?」

「そう?」

「で、もう十分におれの事はわかった?」

「ううん。あなたの事もっと知りたいし、私の事ももっと知って欲しいわ。」

「その響き、エロくていいね。」