どれほどの悲しみだったろう?
サミアちゃんはずっとずっと津南の帰りを待っていたのかもしれない。
違う女性と結婚しても、書きたい記事が書けない彼でも、彼が無事なら釈放さえされたら、いつか会いに来てくれると信じていたのかもしれない。
レビアたんと契約したのも、悲しみに負けて早まった行動するより、生き延びることを選びたかったからだと私は思う。
生きて、生きて生き抜いて再会したかったんだと思う。
でも、契約の反動は大きく、サミアちゃん自身が「何を悲しんでいるか?」さえも封印されたなんて悲し過ぎる。
私なら、賢司くんが私じゃなくて妙子ちゃんか、または別の女の子を選んだら、泣いて泣いて泣きまくって、嫌な感情を洗い流して、賢司くんを大好きな気持ちだけを残して新しい男の子を好きになりたい。
お母さんが出て行った時は泣けなかったから…。
もしかすると現代のサミアちゃんが新聞を読み、アニメを好むのは津南の書く記事と、描く錦絵を無意識に求めたから?
でも、会えたのは私達みたいな子供で、津南みたいな大人じゃないけど…。
サミアちゃんは子供達の願いを叶え続けたみたいだけど、一番救いを求めてたのはサミアちゃんだったんだね…。
…山南先生、私、今なら先生の問いが解けます。
「何でも出来る神や悪魔や妖怪は願いが叶うなら何を願うか?」
答えは、『有限な存在の人間になりたい』だわ!
ヒントは私の名前『燿子』は『妖狐』で、妖怪のトップ・妖狐は完全なる人間になる「人化の術」を求めたって漫画で読んだわ!
…きっと山南先生も幼い時にサミアちゃんに願いを叶えてもらったかもしれない…。ただ思い出せないだけかも…。
ううん、工事現場の人も、役所の人だって、小さい時にサミアちゃんに会ってたかもしれないわ…。
ただ、生きていくなかで忘れていくだけ…。
****
「駄目だ、日が沈む!燿子ちゃん、早く願いを言わないと!」
「大丈夫よ賢司くん、妙子ちゃん。
公園を守るには、日没が来ても、明日になっても消えない願いを言うしかないのね…。
山南先生の話、妙子ちゃんの漫画の語り、サミアちゃんの過去、賢司くんの魔王との対峙。
これでわかったわ!
サミアちゃん、『大人達に子供の時の心を』」
****
「おはようございます、山南先生。」
「則本くんのお母さん!」
「明日からは阿部さんのお父さんも垂れ幕を持って参加してくれますわ。
頑張って私達の公園を守りましょう」