思い出した!私の名前は
「イーデス・メアリー・ド・ウルフ」
ドワーフ族の亜種として受け継いだ「土と錬金」に特化した妖精・サミアッド。
性別も寿命もなく、本来は美しき大地と空気があれば、自然に土からいくらでも生まれる私の様な者が、人間の男に心を奪われるからいけないのだ…。
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「いい加減にしろ、イーデス!俺はみなし児を食わすのが生業じゃねぇ!貧困を無くす為に絵を描いて、世の中を変える為に戦ってるんだ!」
「克浩、戦争ごっこはお前一人でやれ。
私が出した食事が要らないならお前だけ食うな!」
「要らねえよ!西洋人の飯なんか!」
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「ひ、卑怯者!わ、私が夜が苦手なのを知っていながら、子供達を置いて東京に来るなんて…!(これではまるで駆け落…。)」
あの時は克浩の好意を嬉しく思いながら、愛欲に溺れる人間の浅ましさを少なからず嫌悪した。
子供以下の独占欲で、出会って三ヶ月で私を東京へ連れて来たと思っていた。
だが…130年の時を経て、賢司、燿子、妙子に出会えた今だからわかる。
お前は知っていたのだな…。
私が視えない子供達は、私から声をかければ姿が視えるが、その子供達に願いを叶えても、日没とともに私と私の魔法の記憶を失う。
それが克浩と賢司達との決定的な違いだ。
それでも私は繰り返し子供達に声をかけ、願いを叶え続けた。
克浩は、端で見ていてそんな私の姿に堪えられなかったのだな…毎日、毎日「初対面」のように子供達に驚かれる私に…。
私も克浩さえ居ればいいと、東京に慣れて来た時…。
「逃げよう、克浩。今度は私が誘う番だ!出頭命令に馬鹿正直に従えば、お前は一生檻の中だ!」
「すまねぇ…イーデス。ブン屋が書きたいこと書けねぇってのは死ぬより辛いんだ。
大丈夫、直ぐ帰ってくるさ。
だからお前は『水神の洗礼』を…。」
問題は会えないことではない。
妖精の私が塀の向こうの彼に「面会を求めること」が不可能な事だ。看守などと言う人物は私から呼びかけても、絶対に認識しない人種だからだ。
そして投獄生活が続く中、克浩は獄中で祝言を上げた…。
相手は彼が出版する「絵草子新聞」の出資者の令嬢。
失意の私はその翌日に、リバイアサンと契約した。
雨でも死なない身体を手に入れたが、無くしたのは真の名前。
捨てたのは過去。
忘れたつもりだったのは「思い出」。
あぁ、130年ぶりに私は失恋の悲しみから癒されたのか(笑)。