翌朝 彼の屋敷にて
「私は今日はデルフォイの神殿に行く。
事の真相も大事だが、ご高齢の巫女長様に会いに行くことにする。」
「お義父様、ソレントもお供致します。」
「いや、ソレントよ。お前はアルラウネと闘技場(コロッセオ)に行くがよい。プルートの試合を観て見聞を広めるのも勉強だ。」
「…闘技場は有料…。」
デルフォイの神殿
巫女長の部屋
「お久しぶりです。軍規律官さま、いえ『名誉』軍規律顧問さまだったかしらねぇ?」
「お久しぶりです、巫女長様。その通りです、私は宮勤めをする意志はありません。」
「相変わらずですね。今日はどうなさいました?
まさか、このババの見舞いだけではありましょうに?」
「勿論です、お伺いしたいことがあり、参りました。
先の大戦に関する神託です。」
「いつか来られると思ってました。
しかし、お恥ずかしながら、老いと病から私は大戦の予言=神託をしておりません。
貴方の友人、カイレフォンに頼まれ、『世界一の賢者は誰か?』の質問に対する神の御言葉を告げたのが最後です。」
「巫女長よ、では大戦の神託を出したのは?」
「次期巫女長のロディテです。」
「我々は大勝利を治めた。
そのロディテ様も、何と素晴らしき力の持ち主だ!」
「空世辞はお止めなさい、大戦の英雄さま。
貴方は気付いているのでしょう?
この国の政治とは、元老院が我ら巫女のお告げに依存していると言うことを。」
「どうとでも解釈できる、曖昧で抽象的な言葉を『神の御言葉』とおっしゃることでしょうか?」
「そのような巫女もおりますし、真の力を持った巫女もおります。
ロディテは前者で私は後者だったと思いたいです。」
「元老院とデルフォイの巫女様達は、市民を欺き続けたという疑惑を認めるということか!」
「そう興奮なさらないで、市民一の英雄さまよ。
真の力を持った巫女など三代に一人誕生するかどうかです。
しかし、人間には『畏れを知る』という気持ちを忘れない為にも、巫女の予言を信じる気持ち、その生活そのものが大切なんです。
どうかロディテを許して下さい。
あの子もただの人間の女なのですから。」
「そのロディテ様は今?」
「傷を負い、ここに居ないとだけ申し上げます。
しかし、私はロディテに巫女長を継がす意思はありません。
デルフォイの巫女は終わりの時を告げるのです。」
「何故?」
「『責任』とだけ申し上げます。」