朝食
「おはよう、アルラウネよ。昨夜は眠れたか?」
「…ソレントの歌声を聴いてたらいつの間にか寝てた…。
朝も凄くすっきり目覚めた…。」
「まぁ、それは良かったわねぇ。
本当に仲直りの早さは子供ならでわね。」
「おはようございます、アルラウネお嬢様。
今、パンとミルクをお持ちします。」
「…全部はまだわからない…。
でも、こうやってソレントが働けるのは、お義父さんと、国のおかげ?」
「一晩で物分かりが良くなったではないか、アルラウネよ。
そうだ、自立と責任の名の下に、労働は社会との輪を繋ぐ。
この考えが私とカイレフォンの違いだ。」
「お義父様、良いではありませんか。
私はこの結果を少しも恨んでいません。
それに…。」
「『舞台には唯、演者のみが存在する』であろう?
全く、私や息子達がソレントの時くらいの年にはもっと子供だったというのな。
それに比べてカイレフォンの所は…。」
「あら、貴方。
いいじゃあ、ありませんか、他所は他所ですよ。」
「テーゼよ、わかっている!
だが、あまりにソレントとの…。」
「ソレント、あとは私がやるから馬車の準備をなさい。
広場とオーケストラを案内するんでしょう?」
「はい、お義母様。」
「行ってきます。お義父さん、お義母さん。」
「嬉しいわ、アルラウネちゃん。
こんなに早く、お義母さんて呼んでくれて。」
「…奴隷が全部正しいとは、まだ思えない…。
でも、ソレントが呼んでる様に呼べば、ソレントの気持ちが今より解る気がして…。」
「アルラウネよ、それでいい。何よりも自分の目と耳で確かめることだ。
きっと劇場はお前に新たな発見を与えるであろう。
頼んだぞ、ソレントよ。」
「はい、行って参ります。」
二人が行った後の屋敷
「テーゼよ、やはり私は間違っていたのか?
カイレフォンは少年奴隷を見つけては、私財を投げ売って、無条件に買い戻しては自分の養子としているというのに…。
私は、幼いソレントに重い借金と労働を背負わせただけではないのだろうか?
カイレフォンならきっと盲目的にソレントを養子にしたかもしれない。」
「貴方、あの子がいい子になったのは、毎日の労働と、貴方の演劇指導、そしてあの子自身の歌声があったからではありませんか?
それに、私はあそこの奥さんも養子達も苦手です。
カイレフォンさん自身はいい人なんですけどねぇ。」
「テーゼ、お前らしいな。」