アルラウネの寝室
「へ~、やるじゃない。『嫌いな』ソレントを自分の寝室に呼ぶなんて♪」
「…お兄ちゃん…ううん、お義父さんの命令じゃなくてソレントが自分の意思で私を探してくれたのは嫌いじゃない…。」
「そう、ソレントが部屋に入るまでにあたしは姿を消すからしっかりやりな。」
「…ウル、ありがとう…。」
「コンコン」
「アルラウネお嬢様。
就寝の準備は終わりましたか?」
「…うん、入って…。」
「失礼します。」
「ソレント…。今日はとても怖い思いをしたの…。一人で寝たくないの…。一緒に居て。」
「わかりました。
馬車での話の続きをして、眠くなったらそのまま寝て下さいませ。
私は傍にいます。」
「…何で…?何でそんなに優しいの?
私はソレントにあんなに酷いことしたのに!
ごめんなさい、ごめんなさい!
ソレントの事嫌いじゃない…。嫌いじゃないから酷いことした私を嫌いにならないで…!」
「お嬢様、ソレントからのお願いです。
どうか泣かないで下さいませ。
私は大丈夫ですから。
本当に嫌いな人を、お義父様の命に逆らってまで捜索しようとは思いませんよ。」
「…ソレントは飛び出した家に帰ろうと思わなかったの?」
「もう少し空腹が続き、もう少しお義父様に出会うのが遅ければ、なりふり構わず叔母に泣きついたかもしれませんね。
しかし、私はお義父様に促され、自分の 責任で生きる為に、自らの意志で奴隷登録しました。
そして正式にお義父様に使用人として雇われました。
それが家無し、職無しは要らない首都ダイダロスの掟なのです。」
「お義父さんはソレントに身分を買い戻させる為に雇ったの?」
「いいえ、それだけではありません。お義父様は自身の夢の実現の可能性を、私の歌声に見出だしたのです。」
「…確か…劇作家になる夢…?」
「そうです、私の歌声が、お義父様の夢をいつか叶えるのです。
そしてそれが私の夢。
お義父様を主人ではなく、お義父様と呼ぶ理由です。
お嬢様、今夜は遅い。
私が子守唄を歌いましょう。」
「…子供じゃない…!」
「♪神々はお喋りをやめた。
小鳥達は歌うことをやめた。
花は咲くことを忘れ、
星は輝くことを忘れた♪
甘美さと陶酔の中で
全ての者が眠りにつく。
眠りにつく。
眠りにつく♪
おやすみなさいませ。
お嬢様。」
「…綺麗な声…。」
「明日二人で広場とオーケストラにいきましょう。」