家路に向う馬車にて
「…ごめんなさい、ソレント…。」
「何の事でしょうか?アルラウネお嬢様。」
「…心配かけた…。」
「お義母様の方が心配されております。
お義父様も、帰りが遅いことに随分と心を傷められ、治安兵に捜索を依頼されてました。
幼い私には、まだ力でアルラウネお嬢様をお守りすることは出来ません。
しかし、この馬車で屋敷までお送りすることは出来ます。」
「…手綱捌き上手い…。」
「ありがとうございます。」
「…ねぇ、ソレント…。
貴方は生まれた時から奴隷だったの…?
なんでお兄ちゃんの所の使用人になったの…?」
「聞きたいですか?アルラウネお嬢様。」
「…聞きたい…。」
「私は…。オリーブ栽培をする両親に不自由なく育てられましたが…。
父が亡くなると、私は叔母夫婦の家に預けられたのですが…。
従兄弟からの陰湿な嫌がらせに耐えられなり、家を飛び出しました。
アルラウネお嬢様と同じ年に。」
「…飛び出して…行くあては…?」
「ありませんでした。
とにかく逃げ出しただけです。」
「…どうやって暮らして…?」
「世間は冷たい。身寄りの無い市民階級の子供を誰も受け入れてくれませんでした。
仕方なく衣服や靴を売り、野山で暮らし、大木の陰で寝泊まりしました。
しかしある日、あまりの空腹に耐えられず、市場でパンを購入したある男性から横取りしたのです…。」
「…まさかその人が…。」
「はい、お義父様でした。」
「…やっぱり…。」
「その場で治安兵に取り押さえられた私は、本来なら有罪が確定し、『訳あり奴隷』としての未来が待っていたはずでした。
しかし、お義父様は言われたのです。
『治安兵よ、その少年を放せ。
そのパンは私が少年に与えたものだ』と。」
「…それ以来使用人として…?」
「屋敷に着きました。
続きは後で。」
屋敷にて
「アルラウネちゃんごめんなさいねぇ、この人ったらまだ幼い貴女に難しい話をちゃんと説明もせずに…。
最初からソレントのことをしっかりと理解させるべきだったわ。」
「アルラウネよ、帰って来てくれて何よりだ!
取りあえず今夜はゆっくり寝て、明日ゆっくり話そうではないか!」
「…そうする…。
途中でカイレフォンの昔も、ソレントの昔も少し聞いた…。
私の寝室で直接続きを聞く…。いいでしょう?」
「ああ、願ってもないことだ。」
「…おやすみなさいいお義父さん」