深夜の町のはずれ
「…トーレス本当なの…?いつも明るく元気なカイレフォンが元奴隷だったなんて…。」
「津波は一瞬で若く、将来有望な漁師・カイレフォンから全てを奪った。
船、港、家、そして家族さえも…。」
「でも、カイレフォンは必死で生き延びることを選んだんだ…。」
「…そうなんだ…。」
「ちょい待ち!アルラウネ、ヤバいよ!招かれざる客ってやつよ!」
「ヘッヘッへ、可愛いお嬢ちゃん。
こんな夜中に一人でどうしたのかな~?
どうせ仕事が辛くて逃げ出した奴隷だろう?
こいつは、いい拾いもんだ!
明日の市場の目玉商品だ。
捕まえな!」
「兄貴、待って下せい!この娘の首のはチョーカーじゃねぇですぜ!
銀だ!本物の銀のネックレスですぜ!
危ねえ、奴隷じゃない子供を売ったら、俺達が処罰されて奴隷にされちまいますよ!」
「お嬢ちゃんがあと10歳年上だったら、たっぷり可愛いがってやるとこだが仕方ない。
お近づきの印としてそのネックレスで勘弁してやるよ。
おじさん達は優しいんでな。」
「…嫌…。大切なお母さんの形見…。
シュヴァーシュ!」
「シャー!」
「ちくしょう!猫の奴め!!引っ掻きやがった!
逃がすな!」
「はい、兄貴!」
「どうすんのさ?あんたの足じゃ、すぐ追いつかれるわよ?
魔女の予言でわからなかったの?」
「…でも、逃げるしかないでしょ?自分に近い予言は出来ないの…。」
「やれやれ、あたしの言うこと聞いて、大人しく今夜は彼の家に帰るなら助けてやってもいいわよ?どうする?」
「…た、助けて…。ウル、お願い…。」
「ちゃんと言えたじゃない!偉いわ。
任せな!
現世は幻
幻は現世
シャハルの鏡よ!
真実の中に
虚構を照らせ!」
「お嬢ちゃん、逃げても無駄って…。
ば、化け物~!!」
「助けて~、兄貴、一人で逃げないでくだせい!」
「…何で…?勝手に逃げて行った…?」
「妖精ニンフのウル自慢のシャハルの鏡で幻を見せたのよ。
白森一番の巨漢、トロールのアストンくんをね。
人間が初めて見たら誰でも腰抜かすわ!」
「…ありがとう、ウル…。」
「いいのよ、でも約束だからね。
今すぐ、彼とソレントの所に帰るんだよ!」
「…うん。」
「…お嬢様ー!!
よくぞご無事で!
このソレント安心しました。」
「…ずっと町を探してたの?
命令されたから?」
「いえ、私の独断です。」