映画の予告をテレビで観て気になっていた作品。夫の大祐を事故で亡くした里枝は、生前は絶縁状態だった夫の親族に連絡を取った。仏壇を前にした義兄は、夫の写真を見るなり「大祐ではない。全く別人」だと言い出した。里枝が結婚した男の正体は?

配役が妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝と知ってから読んだので、イメージしながら読み進めるが、大祐役はきっとピッタリ。控えめでシャイな雰囲気が窪田正孝のイメージ。不器用な大祐は里枝と出会って結ばれて子供を持って……、そんな平凡な幸せな家族だったはずなのに。自分の愛した人は誰だったのか。なぜ別人を名乗っていたのか。里枝は拠り所を失ってしまう。大祐の過去を追う弁護士の城戸(妻夫木聡)は、自身の家庭の問題を抱えており、名前を捨てて別人として生きた大祐に取り憑かれていく。全てをリセットしたくなった事、誰でも一度くらいはあるだろう。リセットした後の自分は一体何者なのだろうか。だが、他人を生きる方が楽という感覚は理解できなくもない。自分を愛せないと生きる事は苦行でしかないものだから。結末はまあ、ごく自然なオチではあるが、どの立場で読むかによって結末の感じ方も変わってくるだろう。私は、大祐の苦悩に寄ってしまったが、全否定してしまう人もいるかもしれない。