1年に1回放映されるチャリティー番組『愛で地球を救おうよ』
全国ネットでチャリティーを呼びかけるこの番組には多くのタレントが出演する。
東京では有名アイドルや大物司会者が進行役をつとめるが、地方の系列局には日頃テレビでは見慣れないタレントが数多く顔を見せる。
ゆうきすすむもそのひとり。20年前にはアイドルとして騒がれた時期もあったが、テレビの仕事はここ数年この番組だけ。
放送が始まり、東京にいる司会者が系列局に呼びかける。
「ゆうきさん、そちらの状況はどうですか?」
「はい。こちらにも多くの善意が寄せられています。先ほどは小学生のお嬢ちゃんにこのようなものをいただきましたー!」
画面には小銭がぎっしり詰まった小さなビンを握ったゆうきが映っていた。
「素晴らしいですね。ほんとにみなさまの善意が感じられます。ゆうきさん、ありがとうございましたぁー!」
ゆうきが映る時間はほんの数秒。1日に何回かそんなふうに映るだけ。
「ちょっと休憩してきます」
ゆうきはスタッフに言って休憩所へ行った。
【休憩所】
ゆうきとマネージャーは二人だけになった。
ゆうきは足を机の上に乗せて置いてあったウーロン茶をがぶ飲みした。
「はあー! これがビールなら最高だねえ!」
マネージャーは口に人差し指をあてて慌てて言った。
「し! ゆうきさん、ダメですよ。今日はチャリティー番組なんですから」
ゆうきはマネージャーを見ると、ふん! と鼻を鳴らした。
「チャリティーねえ。よくもまあ、毎年、毎年、もって来るよ。あの程度の金で世の中救えるんなら、神社の賽銭なんて宇宙まで救ってるよ」
「まあ、こういうテレビでやらないとお金は集まりませんから」
「どうせタレントに会いたくてくるだけだろう。さっきなんか、小学生のガキに『あんなオヤジよりキムタクが見たかった』なんて聞こえよがしに言われるしよ。キムタクがこんなド田舎くるかってーの!」
「そうはいっても有名タレントが田舎にまでこれないから、こちらにも仕事がまわってくるわけで」
「うん、そうだな。それはそれで仕方がない」
ゆうきの声のトーンは沈みこんだ。
「さあ、がんばりましょう!」
マネ-ジャーにうながされゆうきは立ち上がった。
ゆうきは休憩所を出る手前で足をとめて、マネージャーに真剣な表情で言った。
「おい、来年もこの番組の出演、スケジュールに入れておけよ。なんたって、この番組はおれを救うチャリティーでもあるんだからな」
マネージャーが頭をさげると、ゆうきは休憩所を出て行った。