「何言ってるんですか?」
思わずムッとして腕を振り払うと、その私の態度にカチンときたらしく、
「鍵を渡した俺の気持ちが分かんないの?」
「・・・そんな勝手な気持ち、知りません。それに私、この後、約束があるんで」
パーティーバッグを乱暴に開けて渉さんのおウチの鍵を出して、渉さんの胸辺りに投げつけてやった!
もう知らない。
なによ、勝手に結婚って!
こっちは数いる都合のいい女の一人だって思ってたし、否定しなかったじゃん!
それなのになによ、今さら!
どうせ今は上手く収まっても信じらんないよ。
苦しい思いなんて二度としたくない・・・
なのに、どうして動けないの?
ムーくんとよっちゃんと飲みに行きたいのに!
私は俯いていると渉さんも黙ったまま、落ちた鍵を拾おうともせずにその場にいる。
2人で気まずくいると『紗枝~』と私を呼ぶ声がしたので顔を上げると、いきなり抱き寄せられてしまった!
離れようとしても、渉さんの力が強くてびくともしない。
「離して!」
「他の男のとこへ行こうとしてる彼女を離すバカなんているわけないだろう!」
「その、そもそも彼女ってのが信じらんない!」
「彼女でもない女に大事な家の鍵、渡すかよ!」
「そんなの知らない!とにかく鍵は返したし、約束あるから渉さんとは居れない!」
思いっきり力を込めて渉さんの胸あたりを押すと、どうにか離れられて逃げようとしたけど素早く手首を掴まれてしまった。
「うわぁ~、俺、ノンケカップルの修羅場初めて見た・・・」
「よっちゃん!」
いつの間にかよっちゃんが渉さんと私の目の前に立っていて感心したように言っている。
渉さんは露骨に嫌そうな顔をして、
「紗枝ちゃんと約束したのって君だよね?」
「そうですけど、紗枝よりEstrellaの渉を連れて行ったほうが喜びそう」
「え?」
嫌そうな顔をしていた渉さんだったけど、よっちゃんの思わぬ言葉に拍子抜けしたみたいだ。
よっちゃんは笑顔で、
「俺の恋人がファンで。俺もファンはファンだけど・・・どっちかって言うと好みかなぁ~。そのSな感じを征服したい、みたいなね?」
と言っていた。
渉さんは急に恥ずかしくなったみたいで何も言えないでいる。
自分が見当違いな嫉妬をしているってことに気づいたらしい・・・
でも、だからって、よっちゃんは確か自分のこと言ってなかったはず。
ってことは、私のために・・・?
「よっちゃん!」
「って言ってもEstrellaの渉が来るはずないか!残念だけど紗枝、今度はちゃんと紹介しろよ?」
そう言って私の肩をポンポンと叩いて行ってしまった。
よっちゃんの後ろ姿を見ていると渉さんが、
「紗枝ちゃんの約束、なくなったよな?」
「ハイ」
「ちゃんと話したいからウチに来てくれる?」
「分かりました」
こうして私はもう二度と行かないと誓った渉さんの部屋へ行くのだった。
***
2人でタクシーに乗って渉さんの部屋へ行くと、玄関を閉めるなりキスされた。
しかも濃厚なヤツ。
「・・・渉さん?」
ちょっと離れてやっと言うと、渉さんは私のおでこに自分のおでこをつけて、
「嫉妬した」
「え?」
「嫉妬したの。こんなの初めてだよ」
「そうなの?」
「そう。俺はどっかで女に対して諦めてたから」
「麻衣ちゃんの時も?」
「もうそれは言わないで」
渉さんは苦笑して『あがって』と言っているので素直にヒールを脱いであがり、深い緑色のソファーに腰掛けた。
渉さんは『インスタントだけど』と言いながらマグカップに入ったコーヒーを私に渡し、自分はシルバーのネクタイを緩めている。
コーヒーを一口飲むと、隣に座っている渉さんが徐に話し始めた。
「紗枝ちゃんは俺と付き合ってるとは思わなかったのはなんで?」
「だって・・・渉さんの周りにはキレイな女の人がたくさんいたもん」
「まぁね。それは否定できない」
「ほらー!」
私が口を尖らせて怒った風に見せると、渉さんはクスクス笑いながら私の頭を撫でて、
「他のキレイな後腐れない女なんていくらでもいるのに、どうして自分を定期的に呼ぶのかは考えなかったの?」
「それは髪を切るからでしょう?」
「それだけならプロに頼めばいい話でしょう」
シレッとした顔で言われたので渉さんの二の腕を軽く叩いて睨んだ。
「紗枝ちゃんって大人なんだか子どもなんだか分かんないよね~、まぁそこが面白いけど」
「渉さんだって嫉妬するなんて意外!」
「自分でもそう思うよ。まさかゲイに嫉妬するなんて・・・あぁ、不覚!」
そう言って渉さんは頭を掻いていた。
あぁ、なんか、やっぱり好きだわ。
大人だとばかり思っていた渉さんが意外と子どもみたいに嫉妬したりするんだもん。
ヤバい、ニヤニヤしちゃう。
「今日こそ泊まって行くんでしょう?」
おっ、更に嬉しいお誘いが。
でも・・・
「今日も帰ります」
「なんで?!着替えが欲しいなら買いに連れてくよ?」
「ううん、そうじゃなくて・・・」
「ん?」
本当に不思議そうな顔をして私の顔を覗き込む渉さん。
私は笑顔で、
「結婚するなら、キチンとしないとウチ、意外と親がうるさいんで」
と言ってやった!
キョトンとした顔をした渉さんだったけど、顔を掻きながら、
「俺、そんなこと言ったっけ?」
「もうー!!」
どうしよう、勘違いだったの??
恥ずかしさのあまり渉さんの腕を思いっきり叩くと『イテテ』と言いながら、
「ウソウソ、ちゃんと覚えてるよ。麻衣ちゃんがもうすぐ復帰してくれるから都合つくと思うんだ。ご両親の予定聞いといて、挨拶に行かなきゃね」
「本当??」
「本当。それぐらいの覚悟で紗枝ちゃんに手を出したのよ、俺は」
と、あまりにも嬉しいことを言われたので思わずマグカップを持っていない方の手で自分のほっぺを抓ると痛い。
あぁ、本当なんだな、と思っていると渉さんは真剣な顔で、
「言いたいことがあったら溜め込まないで全部言いなさい。俺は明るくて真っ直ぐで情に厚い紗枝ちゃんを好きになったんだから」
予想もしなかったあまりの嬉しさと、新婚旅行から帰ってくる星羅とノブにどっからどう話せばいいのかという思いに涙が止まらない私だった。
*END*
思わずムッとして腕を振り払うと、その私の態度にカチンときたらしく、
「鍵を渡した俺の気持ちが分かんないの?」
「・・・そんな勝手な気持ち、知りません。それに私、この後、約束があるんで」
パーティーバッグを乱暴に開けて渉さんのおウチの鍵を出して、渉さんの胸辺りに投げつけてやった!
もう知らない。
なによ、勝手に結婚って!
こっちは数いる都合のいい女の一人だって思ってたし、否定しなかったじゃん!
それなのになによ、今さら!
どうせ今は上手く収まっても信じらんないよ。
苦しい思いなんて二度としたくない・・・
なのに、どうして動けないの?
ムーくんとよっちゃんと飲みに行きたいのに!
私は俯いていると渉さんも黙ったまま、落ちた鍵を拾おうともせずにその場にいる。
2人で気まずくいると『紗枝~』と私を呼ぶ声がしたので顔を上げると、いきなり抱き寄せられてしまった!
離れようとしても、渉さんの力が強くてびくともしない。
「離して!」
「他の男のとこへ行こうとしてる彼女を離すバカなんているわけないだろう!」
「その、そもそも彼女ってのが信じらんない!」
「彼女でもない女に大事な家の鍵、渡すかよ!」
「そんなの知らない!とにかく鍵は返したし、約束あるから渉さんとは居れない!」
思いっきり力を込めて渉さんの胸あたりを押すと、どうにか離れられて逃げようとしたけど素早く手首を掴まれてしまった。
「うわぁ~、俺、ノンケカップルの修羅場初めて見た・・・」
「よっちゃん!」
いつの間にかよっちゃんが渉さんと私の目の前に立っていて感心したように言っている。
渉さんは露骨に嫌そうな顔をして、
「紗枝ちゃんと約束したのって君だよね?」
「そうですけど、紗枝よりEstrellaの渉を連れて行ったほうが喜びそう」
「え?」
嫌そうな顔をしていた渉さんだったけど、よっちゃんの思わぬ言葉に拍子抜けしたみたいだ。
よっちゃんは笑顔で、
「俺の恋人がファンで。俺もファンはファンだけど・・・どっちかって言うと好みかなぁ~。そのSな感じを征服したい、みたいなね?」
と言っていた。
渉さんは急に恥ずかしくなったみたいで何も言えないでいる。
自分が見当違いな嫉妬をしているってことに気づいたらしい・・・
でも、だからって、よっちゃんは確か自分のこと言ってなかったはず。
ってことは、私のために・・・?
「よっちゃん!」
「って言ってもEstrellaの渉が来るはずないか!残念だけど紗枝、今度はちゃんと紹介しろよ?」
そう言って私の肩をポンポンと叩いて行ってしまった。
よっちゃんの後ろ姿を見ていると渉さんが、
「紗枝ちゃんの約束、なくなったよな?」
「ハイ」
「ちゃんと話したいからウチに来てくれる?」
「分かりました」
こうして私はもう二度と行かないと誓った渉さんの部屋へ行くのだった。
***
2人でタクシーに乗って渉さんの部屋へ行くと、玄関を閉めるなりキスされた。
しかも濃厚なヤツ。
「・・・渉さん?」
ちょっと離れてやっと言うと、渉さんは私のおでこに自分のおでこをつけて、
「嫉妬した」
「え?」
「嫉妬したの。こんなの初めてだよ」
「そうなの?」
「そう。俺はどっかで女に対して諦めてたから」
「麻衣ちゃんの時も?」
「もうそれは言わないで」
渉さんは苦笑して『あがって』と言っているので素直にヒールを脱いであがり、深い緑色のソファーに腰掛けた。
渉さんは『インスタントだけど』と言いながらマグカップに入ったコーヒーを私に渡し、自分はシルバーのネクタイを緩めている。
コーヒーを一口飲むと、隣に座っている渉さんが徐に話し始めた。
「紗枝ちゃんは俺と付き合ってるとは思わなかったのはなんで?」
「だって・・・渉さんの周りにはキレイな女の人がたくさんいたもん」
「まぁね。それは否定できない」
「ほらー!」
私が口を尖らせて怒った風に見せると、渉さんはクスクス笑いながら私の頭を撫でて、
「他のキレイな後腐れない女なんていくらでもいるのに、どうして自分を定期的に呼ぶのかは考えなかったの?」
「それは髪を切るからでしょう?」
「それだけならプロに頼めばいい話でしょう」
シレッとした顔で言われたので渉さんの二の腕を軽く叩いて睨んだ。
「紗枝ちゃんって大人なんだか子どもなんだか分かんないよね~、まぁそこが面白いけど」
「渉さんだって嫉妬するなんて意外!」
「自分でもそう思うよ。まさかゲイに嫉妬するなんて・・・あぁ、不覚!」
そう言って渉さんは頭を掻いていた。
あぁ、なんか、やっぱり好きだわ。
大人だとばかり思っていた渉さんが意外と子どもみたいに嫉妬したりするんだもん。
ヤバい、ニヤニヤしちゃう。
「今日こそ泊まって行くんでしょう?」
おっ、更に嬉しいお誘いが。
でも・・・
「今日も帰ります」
「なんで?!着替えが欲しいなら買いに連れてくよ?」
「ううん、そうじゃなくて・・・」
「ん?」
本当に不思議そうな顔をして私の顔を覗き込む渉さん。
私は笑顔で、
「結婚するなら、キチンとしないとウチ、意外と親がうるさいんで」
と言ってやった!
キョトンとした顔をした渉さんだったけど、顔を掻きながら、
「俺、そんなこと言ったっけ?」
「もうー!!」
どうしよう、勘違いだったの??
恥ずかしさのあまり渉さんの腕を思いっきり叩くと『イテテ』と言いながら、
「ウソウソ、ちゃんと覚えてるよ。麻衣ちゃんがもうすぐ復帰してくれるから都合つくと思うんだ。ご両親の予定聞いといて、挨拶に行かなきゃね」
「本当??」
「本当。それぐらいの覚悟で紗枝ちゃんに手を出したのよ、俺は」
と、あまりにも嬉しいことを言われたので思わずマグカップを持っていない方の手で自分のほっぺを抓ると痛い。
あぁ、本当なんだな、と思っていると渉さんは真剣な顔で、
「言いたいことがあったら溜め込まないで全部言いなさい。俺は明るくて真っ直ぐで情に厚い紗枝ちゃんを好きになったんだから」
予想もしなかったあまりの嬉しさと、新婚旅行から帰ってくる星羅とノブにどっからどう話せばいいのかという思いに涙が止まらない私だった。
*END*