ハゲ。
それは抗いようのない宿命、運命であり、脈々と受け継がれし血脈が成し得る遺伝と言う名の呪い。
ハゲ。
それは時と共に訪れる、毛根の死…である。
事件は先日起きた。
会社で、事務員の熱視線を感じた。
視線の先は私の目を直視…ではなく、やや上方向。
私はとても、とても嫌な予感を抱きつつも「ナニ?」と来日したてのインド人のようなイントネーションで熱視線の理由を訊く事が精一杯であった。
「前髪、ずいぶんと薄くなったなぁと思って(プゲラ)」
否、薄くなっているのは、何も前髪の一部だけではない。
実は頭頂部も、妙に照明の明かりを反射するなぁ…と自覚していた矢先だったのだ。
思えば、祖父(母方)は見事な富士額であった。
前から猛烈な勢いで後退していくハゲである。
ひとたびその進撃が始まるや、みるみる頭頂目指して突撃が始まる。
勢い破竹の如し。
男性的と言えば男性的なのであるが、ニヤケている私に決して似合う髪型とは思えない。
そして父。
通称「ザビエル・ハゲ」。
見事なトンヌラ型であり、頭頂部だけが薄くなってゆく。
頭頂部にドッシリと堅牢なハゲ陣地を築き、中心より陣地の範囲を広げてゆく。
動かざること山の如し。
ザビエル、カッパ、呼び名の愛らしさとは裏腹にその恥辱は極まる。
そう、私の遺伝子は「前から」「テッペンから」というハゲとしては優秀な遺伝子を受け継いでいる。
言わばハゲ界のプリンス、ハゲ界のサラブレッド、選ばれし血が私の頭部には流れている。
ハゲたらスキンヘッドにするはww
なんて若い頃に豪語している者は多かった。
そんな中、私は頑なに「俺は戦う。たとえ最後の一本になろうとも」と決意していた。
齢40をとっくに過ぎ、そりゃハゲる事もあるだろう。
しかし私は戦う。最後まで戦い抜く。
かといって、これといってケアはしていない。
そんなケアなどは、この血塗られたハゲの血脈に対し何ら影響など与えない事を理解している。
では、いかにしてハゲと対峙するか。
「ふりかける」「かぶる」「植える」「バーコード」
私には、まだまだ武器が残されている。
ハゲたらスキン云々…は、敵前逃亡に等しき行為だ。
自陣を敵に包囲された段階で、投降または自決するようなものである。
私は違う。
例え最後の一本、もとい一人になろうとも、敵の目を欺き戦い続ける。
そう、各種の文明の利器を駆使し、欺き続ける所存なのである。
私は他の男性と比較し、体毛が少ない。
胸毛は無い。
背毛も無い。
ギャランドゥも薄い。
腕毛・スネ毛も薄い。
そしてヒゲも薄い。
パイ毛は2~3本、嗜む程度に備えている。
しかしそれも、最近プツリと抜けてしまった。
なので、せめて頭髪だけでも剛毛でありたい。
いや、人並みでいい。生やしていたい。
そう願う事すら、このハゲ遺伝子と言う名の悪魔は許さないようだ。
死にゆく毛根。
せめて残り少ない限られた時間、モテ期が到来する事を期待する日々が続く。
妖艶なる女性に、荒い吐息混じりに頭髪をサラリと触れられる…それが最高の挽歌となるであろう。
マジハゲカンベン。
オレ、マダハゲタクナイ。