一言の文章も無く携帯電話だけが送られてきた

電源はついたままで 配送中に鳴っていたのだろう

不在着信のメッセージが出ている 迷惑な荷物だな

 リストにしてあった会員情報を1つずつチェックしていく

メルアドの変更 電話認証の解除 退会 登録抹消

ゴルフスイングの動画は残ってなかった 残念でため息をつく

写真は仕事の資料ばかりのなか 新潟の夕日が2回

10分くらい眺めている どんな気持ちだったのかな

音声ファイルも見つからなくてうなだれる

少し嫌になってほんの少し見ては止めて時間ばかり過ぎる

 残り1週間 細かく見ないとな 気を取り直してアプリを見る

半分近く見て開いたアプリに 日にちが並んでいた

タップすると呼び出し音が聞こえて 電話の録音だと気づく

やった! 見つけた 嬉しくてガッツポーズが出た

仕事の話でかしこまっている彼の懐かしい声に 涙が溢れる

 彼はあの日電話を使っていなかった 前の日が最後

いろんな想像と妄想が頭の中をぐるぐると回る

家に掛けるつもりで間違えたのかな 具合が悪かったのかな

私が気付けていたら 帰宅した時話してくれていれば

朝止めていたら 巻き戻せるならいつなら間に合うのだろう

私はどこで取り返しのつかないこの日へ続く方を選んだんだろう

ひとしきり自分の愚かさを嘆いた後 ぼんやりと彼に目がいく

 あなたもきっと思ってるんだろうね

最初の時話していたら もっと体のこと考えていれば

1人にしてごめんね どこか自分は大丈夫って思ってたよ

朝行くのを止めてたら 帰るコールすれば良かった

 互いに尽きない 〜たら 〜れば

どんなに悔やんでも 帰ってきてくれない

だから声が聞けるのは嬉しい

ファイルの数が多すぎるから確認は後回し

まずは保存しないとな

 

 浮かれたほんの数時間

ニヤニヤと顔が綻び笑みがこぼれる

あの日以来初めて嬉しいと心底思った

本当に嬉しすぎてわくわくしていた

嬉しいが過ぎてダメなことも忘れてしまった

人はなのか 私はなのか