*こちらで書いているお話はフィクションです。
登場人物は実在の人物の名をお借りしていますが、
ストーリーは作者の創作によるものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《告白- Ⅱ》




父と母が話していたのは…
いったい何のことだろう?
幼心に、チャンミンは二人の様子がただ事ではないと思った。
だが、話の内容がよく呑み込めない。


「父上と母上は…僕のことでケンカをしていたんだ。
僕が兄上様みたいにいい子じゃないから?
僕を他所へやってしまう相談をされていたんだ!」


「下女が…」と話していたことは、耳に入らなかった。
悲しくてチャンミンは無我夢中で走った。
そして、無性にミンスに会いたくなった…
もと来た通路をたどり、チャンミンは自分の住む区域へと戻ってきた。


ドンッ!


廊下を曲がったところで、出会い頭に誰かにぶつかった。
跳ね飛ばされた勢いで、チャンミンは尻もちをついた。


「チャンミン、どうしたんだ?」


「兄上様…」


ぶつかった相手はミンスだった。
いま、一番会いたい…会って慰めてほしいと思っていた兄だった…


「兄上様っ!」


チャンミンはミンスの腰にしがみついた。
ミンスの顔を見て緊張の糸が切れたチャンミンは号泣した。


「おいおい、どうしたというんだ?
誰がチャンミンを泣かせた?よぉし、私がその者を懲らしめてやろう。
さあ、こちいへおいで。私の部屋でゆっくり話を聞こう。
アルノ、私の部屋にお茶とお菓子を持ってくるように言ってくれ」


「承知したしました」


ミンスの後ろに控えていたアルノは一礼すると、
踵を返して廊下の向こうへと消えていった。


「さあ、チャンミン。
何があったのか…この兄に話してごらん」


兄はたくさんの部屋を所有していた。
チャンミンが出入りしていいのは、書斎とこの寝室だ。
あとの部屋は「子供は出入り禁止だ」ときつく言われている。
チャンミンのすることには何でも寛容なミンスだったが、
ごくまれに見せる冷たい表情があった。
M国の中でも指折りの広大な領地を所有するシム家…
婿養子に入った父とは違い、
正統な後継者であるミンスは、早くから次代の領主となるべく、
一族からも領民からも期待を寄せられていた。
ミンスの中に、稀に感じる冷たさは…
領主として備えるべき要素なのだとチャンミンは理解していた。


「僕…言語のレッスンで満点を取って…
すごくうれしくて、父上や母上に知らせたくて。
行ってはいけないと言われていたけれど、
父上たちの区域へ入ったんです。
道に迷って…でも、母上の声が聞こえたから。
声のするお部屋のほうへ行ってみたんです」


「うん、そうか。それで?」


「そうしたら、母上と父上が…言い争っていて。
よくわからなかったけど、僕をどこか他所へ養子に出すって。
そんな話をしていて…」


ミンスの顔色が変わった。
鼻筋の通った彫りの深い美しい横顔…
切れ長の瞳が鋭く光り、唇は色を失っていく。


「父上と母上が…そのような話を?」


「僕がいけないんです。
兄上様みたいに勉強も武術も出来ないから…
父上も母上も僕の事が嫌いなんです。
だから、そんなことを…」


チャンミンは心から怯えていた。
どこか知らない土地の、知らない家に養子に出される──
まだ10歳で、深窓育ちのチャンミンにとって、
どれだけ心細く怖い事か。
チャンミンの瞳から涙が止めどなく流れる。


「僕、いい子なります!だから…他所に養子にやらないで!
兄上様、父上と母上に取りなしてください!お願いです…」


「チャンミン…」


縋るチャンミンを、ミンスは強く抱きしめた。
ミンスの胸は広く温かく、チャンミンが唯一寛げる場所だった…



「心配しなくていい。
そなたをどこへもやりはしないよ。
待っていなさい。
そのうち…そなたを邪魔にする者たちを…
私がどこか遠くへ消してしまうから」


「えっ…」


見上げたミンスの赤い唇は、
吸血鬼のように妖しく濡れていた。
その3年後、ミンスとチャンミンの父は、
領内を見聞した際の落馬事故により、あっけなく亡くなってしまう。
そして、妻である二人の母も…
夫のあとを追うように病でこの世を去ったのだった。
相次ぐ不幸により、ミンスの領主就任は延び延びになっていたが…
喪が明けてすぐに国王より宣旨を受け、
ほどなくシム家の当主として一族の頂点に立った。
領主として披露目の儀式の夜、
チャンミンは興奮気味にミンスに言った。


「兄上様、領民たちが兄上を讃えています!
これで我が領地はM国一の領主様を得たと…
僕は兄上様が誇らしいです!
こんな素晴らしい方が僕の兄上だなんて…
ああ、本当に…おめでとうございます!」


「チャンミン、ありがとう。
これからは私を支え…共にこの領地を守ってほしい」


「はい、かしこまりました!
遠縁のおじ上たちが言っていましたが…
次は兄上様の花嫁を探すのが楽しみだと。
僕も楽しみです!
兄上の花嫁は、この国で一番の美女でなくてはいけませんよね!
ふふふ…」


「チャンミン…」


ミンスは立ちあがり、ブランデーのグラスを片手に、
ソファーに座るチャンミンの隣へと腰を下ろした。
チャンミンの肩に腕を回し、指先で髪を弄ぶ…


「兄上…様?」


「チャンミン。私はまだ…妻を娶るつもりはないよ。
どうしてそんな寂しいことをいうんだ?」


「え、あっ…申し訳ありません!
お気に触ったなら謝ります…」


「…チャンミンはいま…幸せか?」


ミンスが耳元で甘く囁く。
もちろん、チャンミンは…
いまの暮らしに不足など感じているはずもない。


「はい。
父上や母上が亡くなってしまわれたことは悲しくて。
兄上様のこのご立派な姿をお見せできないなんて、
本当に残念だと思いますが…
それでも、僕はいまとても幸せです。
兄上様を支え、領土の発展に尽くします!」


「そうか…それでいいのだ。チャンミン…
私はまだ、妻を娶ることなど考えてもいない。
やっと父上が逝き、母上も逝ったのだ。
目障りがなくなり、ようやく私の春がやってきたというのに…」


チャンミンは耳を疑った。
兄のミンスはいま、両親を「目障り」だと言った。
一気に背筋が寒くなり、
その言葉が自分の聞き間違いであることを祈った。
そして…兄が急に怖くなった。


「チャンミン…
あの時の約束を覚えているか?
私は…邪魔者は消してやると言っただろう?
私はチャンミンとの約束を果たしたまでだ」


「!?」


「ふふふ…私は約束は守る男なのだよ。
特に、チャンミンのためなら…どんなことも厭わない。
私の美しい弟…そなたはこうして…
生涯、私の側で微笑んでいてくれればいいのだ」


「あ、兄上様…」


その時、部屋の扉がノックされた。
ミンスはグラスのブランデーを飲み干すと、
すっとソファーから立ち上がり


「さあ、今夜はもう遅い。
子供は寝る時間だ。部屋に戻りなさい」


「はっ、はい…では、兄上様…おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


動悸が激しくなり、早鐘を打つ心臓が痛かった。
急いでドアを開けると、そこには…
執事のアルノが立っていた。
アルノはミンスにだけ仕える執事で、
チャンミンが生まれた時には、もうミンスの側にいた。
冷めた視線でチャンミンを見下ろすと


「おやすみなさいませ」


視線と同じく、冷ややかな口調で言った。
チャンミンは、自分はアルノに嫌われていると感じていた。
そして、どこか不気味なアルノのことが怖かった…


「あ、お…おやすみ!」


チャンミンは早くその場を去りたかった。
その後、アルノは…ミンスの部屋へと姿を消した。
 

 

 

 

 

 

 

 

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