500缶ビールを2缶飲み終わった頃、碧澄が立ち上がり、ステレオの方に向かい聞き覚えのあるクラッシクを音量を低くして流し始めた。
「どう?結構イイ音だろう」
「よく解らないけど、こんなに小さい音量でも音が部屋全体に広がって聞こえる。しかも低音もしっかりして聞こえる」
「いいとこ、ついてる。高校の時ブラバンだけに、生の音わかるね。サックスだったけ?」
「よく覚えていたね。アルトだよ。」
「管楽器の音、特にトランペットの音。音の粒子と言うか粒立ちが解らない?うまく説明出来ないが音の粒子が耳に入って来る感じ?」
「ごめん、何言っているか良くわからない?」 こいつ、変態?
「ん~?じゃーバイオリンの弓に塗っている松脂がこすれて落ちる感じは?」
「意味、全然、わからない?」 碧澄の危ない一面を見たか?
「ガ~ン!少しよく聞いてよ」
と言って、碧澄の隣に座る様に言われクッションを間に入れてソファーに座った。
「ここでいいの?」 変態、変な事するなよ~
「そこでいい。少し慣れて来たら解ると思うよ」
碧澄の言うように眼をとじて耳を澄ましていると、情景が見えて来たような? あ!何となく?
「碧澄、何となくだけど音が出る前に、弓と擦れる感じがわかる」
「そう、こすれてヤニが落ちてから音が出る感じ」 本当は??
「何となく?管も何となく・・粒子が?」
何となく洗脳されてる? でも聞いているうちに何となく解るか?
今までに体験した事のないオーディオの音。
最近はイヤフォンでしか音楽を聞いていない。ただ、リズムとボーカルが聞こえていれば満足だから。
聞くところの、次元が違うのか? 私は音の粒子や松脂の擦れる音は気にしたこともないし、聞こうとも思わなかった。
「もう少ししたらトライアングルが奥の方で3回小さく鳴るから」
奥の方? 何だ? すると左奥から 3回聞こえた
「左奥から聞こえた・・」
「どう、わかった。奥行感もあるだろう。多分普通のやつならトライアングルじたい他の音と混じって解らないと思うよ?」
何なの・・? 別人の碧澄がここにいる。
「そうなの?」 別人・変態の碧澄が怖い・・かな?
「このシステムはクラッシクは苦手なんだ。今のこのクラス以上の物はもっとリアルだよ。帰った時にオヤジの聞いたら、やっぱりリアルさとクオリティーは時代を感じる」
「そうなんだ?」 わからない・・?
「でも今でも、そのへんの物よりは比べものにはならないけどね」
自己満足? の碧澄・・
それから、数曲聞かされて段々と理解が出来る様になってきた・・
碧澄は突然ノートPCを持ってきて
「これを観て。」 と言って動画を再生。動画は途中から再生・・
アニメ映像で川辺に少女が出てくる。 ヤバイよ碧澄・・。ロリそちらの趣味もあるの? 少し引く~。
碧澄のDarkな部分? やがて音楽がスピーカーから流れだし場面が変わり“外宮?・内宮の千木?・鳥居・橋?・宇治橋” これって?
「碧澄、これって伊勢神宮?」 碧澄は曲をいったん止めて
「そう、2014年の神宮式年遷宮 の公式テーマ曲で、タイトルが“【伊勢神宮】いせの いすずの もりのみや ISE-JINGU” 今でもネットで配信されていると思うけど?」
「そんなの有るんだ。」
「アニメと音楽がリンクして素晴らしいよ」
「式年遷宮だから、もっと厳格かと・・」
「当然、神事・祭事は厳格だけど式年遷宮の広報は時代と言う事で」
「そうだね。もう一度最初から聞かせて」
【伊勢神宮】いせの いすずの もりのみや ISE-JINGU
「音と映像をよく観て」 そういってアニメの最初からスタート。
最初は内宮の正面から、ここから再生なら直ぐにわかるのに。
碧澄が言うようにアニメと音楽がリンクして、そして再生されるメロディも神宮を思わせるし、稲穂が垂れる頃に?稲光・雷の音が入っていてリアルでビックリした。本当の雷が落ちたと思ったくらい。
「どう?いいだろう」 どっちの事? 音・音楽?
「うん、音楽の音も現代的なのに ジーンときた。雷の音もすごかったよ。リアル感すごいね」
「ネットの音だから品質は、だいぶ落ちるけどね」
「もう一度、聞かせて・・」 本当にまた聞きたかった・・
聞き終わると、何となく心が穏やかに・・・
「神宮やるね・・ますます好きになったよ」
「そうだろう、神宮の神様も時代と共に・・かな?。ただ疑問に思うのが有るんだ」
「え?何?」
「お姉さんの髪が最初は茶髪のボブなのに、終わりには黒髪のロング?。」
「気付かなかった。ごめんもう一度ね」
碧澄のヤツ、やっぱり私みたいな長い髪が好きなんだ。
それで、こんな事にも気が付く? 髪フェチ? きも~い!
その後も何やらオーデイオの話をマニヤックに話されても・・・
メンドクサ(面倒くさい)!適当に話を流しましたぁ~~。
イイ雰囲気が下がりま~~~す。
「碧澄、今度はワインにする?」
「そうだね、おつまみ。チーズとサラミのおかわり」
バカヤロ~調子にのるなよ~。サラミは切ってチーズは切れているやつ。
それに、マヨネーズを一絞りに一味を掛けて・・
「はーい。おまたせ」 でも、ちょっとイイ気分!
「今度はワインと愛の香りに乾杯。」 香水に気づいているじゃない!
「あら、お世辞うまいね。でも何も無いからね。かんぱーい」
また、碧澄の“講義”が始まり適当に聞き流していると、違う曲を・・
「これ、古い録音だけど素晴らしいよ。オヤジから借りてきた」
Cantate Domino
「“Cantate Domino”と言うアルバムの中の 1曲目 ”Cantate Domino” と 9曲目 ”O HOLY NIGHT / CANTATE DOMINO” と言う曲。別なタイトルはChristmas songになってる。 O Holy Nightは季節は違うけどクリスマスにはO Holy Nightのポップアレンジで街の中に流れているよ。聞いた事があるはず。何かタイトルが、ややこしいけどね」
「キリスト?讃美歌?教会音楽?」
「そんなところかな。」 アマテラス様の後はキリスト様かよ
スピーカーから出る音は、パイプオルガンから始まりコーラスが・・
重厚な音の粒とメロディ?に圧倒された。
音もそうだけれど、曲が・・癒される。
さっきまでの碧澄の講義のウザさが飛んでいった。
人種が違えど、神への思い願いは一緒か?
思わずクッションが有るけれど碧澄に寄りかかってしまった。
ウットリしてしまう、この空気感。
「どう?何とも言えないだろう」 まいった
「これも、もう一度お願い」
「仕方がないな~」
碧澄は策士か?悪魔か?私を音楽で落とそうとしている?
システムが違えば受ける感情も違うのかな? わからない?
私の携帯に入れてみよう。
「碧澄、携帯に入れて」
「動画サイトで探せば、音質は落ちるけど有るかもね。無ければ面倒だけど入れてあげる。」
何が面倒だ。碧澄が面倒くさいんだよ。
「Cantate Domino の中の曲は他の演奏も有るけれど、教会での録音だから神に捧げて歌っている。これ“優秀録音”なんだ。聞き惚れてしまう」
「マジCantate DominoとO Holy Nightは引き込まれるね」
「だろう、だろう。でも普通のステレオやイヤフォンで聞くならタダの讃美歌! 空間を表現できないから」 子供の様だ・・でもウザイ!
「碧澄コンサート行くのってクラッシック?」
「クラッシックが多いかな? 小ホールの室内楽がイイかもね。」
「ふう~ん」
「ホールは咳払いも出来ない空気だから、演奏者も気合が入って良い演奏をしようとしている。俺には当然解らないけど中には今日の○○は調子が悪かったな・・なんて帰り際に言っている人もいるしね。 俺は生の音が聴きたいだけだけど」
「マニアック。私なんか席で飛んだり、跳ねたり、声を出してノリノリのコンサートだよ」
「それは、それで正しいコンサートの聞き方。アーティストもそれを望んでいる。誰もピアノの音、外したからなんて文句も言わない」
「そうだよね。形態が違うもんね」
「結妃なんか、咳を気にしすぎたら、益々喉がイガイガになって咳払いをしたくなるって。だからタオルを持っていくんだ。まだ使ったことは無いけどね」
「結妃ちゃんでも気にするんだ。そう見えないけど」
「だよな。でもアイツ俺より行っている。クラとPOP両方」
「へ~。」
「生の音。俺よりズーと詳しいかも」
「へ~~」 しか言えない。やっぱり結妃ちゃんはLadyなのか?
「札幌より名古屋に行ってから、また増えたんでないかな?大阪も有るから開催数が格段に札幌と違う。 羨ましい!」
「碧澄も、羨ましがる事あるんだ?」
「それは、有るよ。まだまだ未熟者だから悟りの入口にも到達していないし煩悩の塊だらけ。色んな欲も有るし」 下ネタ来たか~
「碧澄の言う事、どこまでが本当だかわからない!」 バカ
「そこはフィルターに掛けて・・」
「意味・・わからない・・」
怒りながらも、まだ体は碧澄に寄りかかっている私・・
私も欲の塊だ・・
碧澄が立ち上がりまた違う曲のセットを・・・
流れてきた音は~サックス。これも甘い音色だ。 ちょっとウットリしちゃう。
「Kenny G - Cantique de Noel (O Holy Night)これもさっきのCantate DominoのO Holy Nigh のカバーが沢山あるけどKenny G のが一番好きかな・・O Holy Night - Relly Daniel Assa (Saxophone Cover) これもイイよ、次にかけるからね」
碧澄が何か言っているが、サックスを吹いていた私にとって、この音色とメロディー、そしてワインの魔力もあってウットリ。 横のクッションを取り胸に抱えながら、碧澄の膝に頭を・・そう膝枕
「碧澄はルシファー・・?でも、私こうしていたい・・」
まんまと、碧澄の策略に落ちてしまった? 碧澄は無言で私の髪を撫でている。
私、考えてみると膝枕で横になるの子供の時以来だ。それも両親以外では無い。 どうしてこの様な行動をしてしまったの? 膝枕なんて?
碧澄が悪い。碧澄が膝枕をしたから、無意識にヤッテしまった。
“ルシファー碧澄”が悪いんだよ~~
時々、指が耳元に・・だめ私・・ヤバイ・・
もし碧澄も私の魅力に負けて体に変化が出たら・・
スエットでこの体勢・・マズイ。碧澄が制御不能になったら困るし。
早く起きなければ・・でもこの曲が終わるまではこのまま寝かせて・・
碧澄もう少し耐えてね・・・私も我慢するから・・・
曲、まだ終わらないで・・・
O Holy Night も終わり次の曲も流だした。 起きたくない~
起きなければ・・ アレ?碧澄のヤツ、私の魅力を完全無視?
体に変化が起きる気配がない。指で耳元を撫でていたくせに・・
私一人で勝手に盛り上がっていた? ふざけるな~アオト!
下から碧澄を見上げると、眼をつぶり音の粒子に浸っている様子。
私の魅力は音の粒子に完敗したの? もう一度“ふざけるな~アオト!”
ウットリから怒りへ・・・ 碧澄の“ぽっぺた”を軽く叩き
「碧澄、起きるよ~。お風呂入ってからまた飲もう~」
何で優しく言うんだろう?
「そうだな、お風呂に入ってまたゆっくりしよう。」
「愛、先に入っていいよ。」 と言いながらステレオを止めに・・
「じゃ、先に入るね。ここのお風呂初めてだから、緊張する」
「変わらないよ」 着替えを持ってお風呂に
「いつも言うけど、覗くなよ!」
「覗かないよ。」
「本当だからね。」
「俺はスケベだよ。高校の時から」 どこまでが本当だか、解らなくなってきた。
でも結妃ちゃんの言うように“まだミドリの事、知らないの?”の意味はこう言う事?。 まだまだ、碧澄の事 知りたい。
「じゃ~お先に~」
「あまり、磨かないでね」
「フゥ~んだ」
また言っている。碧澄にとって私は眩しい存在なのかな?うれしいぃ
お風呂から上がり、洗面台の前に立ち辺りを見渡すとドライヤーがある。
使いたいけど遠慮しておこう・。結妃ちゃんも使っているのかな? 濡れた髪も梳かしただけでもイケるし、タオルで拭こう。
「碧澄、ごめんね。お風呂いいよ~」
「おれ、カメラで監視してたから」 うるせ~
「ば~か。サッサと行きな。碧澄がお風呂に入っている間、少し洗面台貸してね。肌、整えるから」
「別にいいよ」
そう言って碧澄はお風呂に。 髪を拭きあげて洗面台に行くとシャワーの音が。 少しドキドキ・・あれ?扉を開けて覗きたい感覚。 男だけかと思っていたら女も? 今までにこの様な状況が無かったから気が付かなかったけど・・でも最後は相手しだいかも?
チラ見よりも“コラ碧澄”と言って開けた方が面白いかも? 結妃ちゃんならするかもね? そう思っていると鏡に映る顔が穏やかに笑っている。
お手入れも終わり寝室の窓のカーテンを開けて、夜景とは言えない夜の街の灯りを眺めていると碧澄もお風呂から上がり
「おまたせ」 何が お待たせ?
「別に待っていないけど」 意地悪に言ってやった
「一人で寂しいかとおもってさ」
「別に~」 と言った途端に後ろから優しく抱かれ
「今の愛夢はいつもの香りでは無いな~」
「当たり前でしょ。シャンプー違うもん。犯罪だよ」
これって、私に抱き着く言い訳? 素直になりなさい
「犯罪者に成りたくないあ~」
そう言いながら、優しくゆっくりと体を揺らしてくれる。
これって、天橋立のホテルと同じだ。
碧澄と初めてキスをした時と。
仕方がないな~と横に顔を向けてキスを催促。
キター そう、素直になりなさい。
数回いつもの軽いキスを。
碧澄、素直になりすぎ! 体に変化が・・ヤバい!
でも、膝枕ではなくここで? 私、微妙な感情・・?
「はい、終わり。お酒は止めて牛乳飲みたい」
私もなんとか自分で制御できた~。危なかった~
「ホ~い。今のは犯罪ではないよね?」
「ギリ。訴えないよ」
「ありがとう」 楽しい~
「飲んだら寝ようか。碧澄、本当にソファーで寝るの?」
「そのつもりだけどね」
「ベッド広いし、襲わないなら一緒に寝ていいよ」
ここは、碧澄の部屋だしソファーで寝かすのは申し訳ない。それに襲い掛かる事もないだろうし
「それで、イイならベッドで・・」 遠慮しているのか?
「絶対だからね。」 結妃ちゃんのベッドだからとは言えない
「絶対です。守ります」 いい子だ
一応グラスや酒盛りセットを片付け綺麗にしてあげてから寝室に
ベッドにある鉛筆型のクッションをよく見ると、太めに編んでいる毛糸?
「碧澄 この、縫い付けている黄色い紐みたいの何ぃ」
「笑うなよ。それ結妃が毛糸を買ってきて“しめ縄”を作ったつもり。要するに俺が侵入できないように“結界”を張っている。」
「かわいい。結妃ちゃんらしい。いい結界だ。私もこの結界で碧澄の侵入を防ごうと」 かわいい結妃ちゃん!
「これも、あるゾ。」 枕の間に有る大き目のクッション
「その、クッションは? 何か書いてある? 読めない?」
「“思除留神(おもい とどまりの かみ)” と言うらしい。結妃が言うには ”思金神(おもいかねのかみ)“の、弟」
「思除留神?という神様。いた?」古事記には登場していないような?
「結妃が勝手に神を作ってクッションに書いた。」 はぁ~?
「え、何で。どんな神様?」
「まず、寝ていて俺が夜中に眼を覚ました時に、無防備でアホ面の寝ている顔、観られたくないらしい。」
「確かに・・」
「それに、思除留神のご利益は 言いにくいんだけど・・・」
「なあに~?」
「・俺が“H”しようと思った時に、その気を思いを止めるんだって」
「いや~、ちょっと私には刺激強すぎる話だ」 マジか~
「バカだよね」 ちょっと聞いてみよう~と
「それで、思いが止まるの?」 きゃ~
「そこは、許してくれ。ノー・コメント」
「あれれ~?」
「天手力男神(あめのたぢからおのかみ)になる時も有るけどね」
「と言うと?」 言わせる
「岩をも投げ飛ばすから、クッション位は跳ね除けるよ」 マジか~
「ちょっと、ちょっと。」
「ついでに、結界も・・・切る」 おもしろい
「もうそれは、完璧な犯罪だよ。」 結構、強引な所もあるんだ
「その度に貸を作らされている」 結妃ちゃん、強い
「結妃ちゃん、羨ましい!。それに、かわいい」
つい、羨ましいと言ってしまった。 碧澄、聞き流せ~
「あいつらしいな~。可愛い」 自分でも可愛いて言っているし
「ホント、行動が かわいいよね。早く来ないかな」
「再来週あたりかな?」 羨ましいけど、もう嫉妬はない
「じゃ、私も思除留神と結界のご利益を借りようかな」
「お好きにどうぞ」
思除留神を枕と枕の間に置いて、鉛筆の結界は布団の中の私と碧澄の間に・・この感じて・・本当に仕切られているようだ。
この前、伊勢神宮に行った時に碧澄が、神宮の“宮”の字の“口ノ口”の部分の“ノ”が無いのを教えてくれて、それと同じだ。
碧澄が言うように 神を“部屋から出さない” “行き来が出来ない”ようにしている呪文の“文字”かも
「じゃ、寝ようね。天手力男神になったらダメだからね」
この部屋では、絶対にダメだよ。お願い・・・。
「わかった。おやすみ・・」
「おやすみ・・・」
私達て真面目で仲の良い、変な三角関係
大人の男女の関係て結婚は?別にして“H”まで行くのが最終目的? ゴールなの?
今の私は、チョットHな冗談を言ったり、軽い挨拶程度のキスをしたりして、この状態(仲)が、続けて行けるのなら満足だしゴールでもいい気がしてきた。
そう思いながら碧澄の方を見ると“思除留神クッション”が私の視界を遮る。 そう碧澄からも私の無防備でアホ面の寝顔が見えないはず。
思除留神クッション これ良いかも? 少し安心して眠れる。
思除留神のご利益は別にして、物理的なご利益は最高かも。
結妃ちゃん・・ここでは何もしないから安心してね・・
でも、少し碧澄を借りるね・・
おやすみ、結妃ちゃん。碧澄。・・・・