前回
、痴漢初体験のことを書いたけれど、アタシはその後も何度か痴漢にあったことがある。
要するに、隙が多いのだと思う。
中でも一番インパクトの強いのが、高校生のとき。
下校途中のことだった。
アタシの住んでいる一戸建て住宅団地は、最寄り駅から7㌔も離れたところにあり、その道をいつも自転車で通っていた。
高校までは、そこから10分ほど電車に揺られ、さらに15分ほど歩かなければならない。
そんなわけで、部活を終えて家に着くころには、日の長い夏でも、もう真っ暗になってしまうのだ。
その日もアタシは、いつもの通り、暗くなった道を自転車で帰っていた。
団地は割と高い位置にあるため、行きは気持ちのよい下り坂なんだけど、帰りの上り坂は地獄そのもの。
だけど、中学から通いなれた坂道だけあって、自転車を押しながら歩くなんてことはしない。
意地でも乗ったまま漕ぐのだ。
その坂道にさしかかる少し手前で、アタシは後ろから近づく自転車の音に気づいた。
よほどスピードを出しているのだろう、その音は異様に大きかった。
(めっちゃ急いではるんやなぁ……)
そんなふうに呑気に考えていたのもつかの間、抜かされる直前に、アタシは思いっきり胸をわしづかみされたのだ。
あまりにびっくりして、アタシは叫ぶことさえ忘れてしまっていた。
(何? 今の……!?)
しかし、考えても答えが出るはずもなく、アタシは気を取り直して、前に進むことにした。
さっきの自転車は、どうやら団地とは逆の方向へ曲がっていったようなので、ひとまず安心する。
でも、本当の恐怖はそれからだった。
アタシが団地の方向へ曲がり、少し進んだころ、またあの音が背後から近づいてきたのだ!!
後ろを振り返ると、自転車が1台。
だけど、さっきの人なのか確信が持てるわけじゃないので、ジロジロと見るわけにもいかない。
アタシは力いっぱい坂道を上り、なんとか逃げ切ろうとするが、相手は男。
敵うはずがない。
その自転車は、あっという間にアタシの自転車と並び、今度は股間をまさぐった。
(やっぱりさっきのヤツや!!)
その男は、別の方向へ曲がったあと、迂回して再びアタシのうしろへつき、チャンスを狙っていたのだ。
アタシは怖くなって、自転車から降り、耳をすませた。
すると、微かに自転車の音が聞こえる。
目をこらすと、前方に黒い影が見えた。
アタシの心臓はバクバクと鳴り始め、思うように動けない。
しかし、ここにいるとまたやられる……。
どうしてあの男は、アタシの居場所がわかるのだろう?
音?
でも今は止まっていて、聞こえるはずがない。
ライト?
アタシは慌てて、自転車のライトを消す。
そして、周囲に充分注意しながら、ゆっくりと、できるだけ音を立てないように自転車を押して歩く。
このまま、家まで突き止められたらたまったもんじゃない。
わざと、いつもと違う通りを選ぶ。
そこはもう、アタシの家のすぐそばだった。
しかし、その通りに入ってすぐ、前方から黒い影が近づいてきたのだ!
もう終わりだと思った。
そこは、アタシにとっては上り坂で、相手にとっては下り坂。
10秒もあれば、下りきってしまうだろう。
どう頑張っても、ヤツがアタシのところにやってくるのを避けられない。
でも、最後の足掻きで、路注している車の陰に隠れてみる。
すると、どういうことだろう……。
男は、すれ違うまでアタシに気がつかなかったようで、一瞬で過ぎ去っていった。
結構急な坂道だっただけに、止まることができず、そのまま下っていってしまったのだ。
アタシは、ヤツが戻ってこないうちに、全力疾走で家に帰る。
そんなわけで、かろうじて無事だったわけだ。
こういうことが、一度ではなく何度もあるということは、隙があるんだろうなと痛感する。
変な男に付回されたり、おたくっぽい人に好かれやすいのも、そのせいなのかもしれない。
これじゃ、いい女には程遠い……。
大切な人にだけ、特別な顔を持てる女になれるよう、努力せんとアカンな!!
そう強く思う。