『いい作品になるよう自信持って頑張ってください』
小百合に言われ、ゆいもそのつもりで卓人に挨拶。初日の撮影で気を良くしたからなのか、今回の案件を紹介してくれた健斗に報告したという。
ゆいにもLINEを送ると言ったが、別にLINEなんて要らない。新しい案件を頂いたことには感謝するが、小百合とのことがまだ燻ってるゆいは、このついでに小百合にもLINEを送ったのかと、これから撮影が始まるのに気になって仕方がない。健斗のことだから小百合がいたのか聞いたはずだ。
それでなくても、ゆいに就いていた小さい子はゆいの妹だと言ってる・・・絶対に言ってるはず。
「小百合に聞きたいけど、聞いたら怒られそう。いつまで気にしてんの!なんて」
怒るか呆れるか。どっちか、どっちもか。
ゆいはスタイリストさんに呼ばれ、今日の衣装選びに入る。前回ゆいが希望した衣装も数点入っていて、ここはスタイリストさんと二人で決める。
瞬間、ゆいは健斗のことを忘れるが、ふとした時にLINEのことが頭をよぎる。ゆいのところにはまだ来ていない。早く寄こせ!と送る?なんて疲れることばかり考え、スタイリストさんの話も半分だ。
「葉山さん?は~や~ま~さん?」
「ん?あっ、ごめんなさい。何でしたっけ?あっ、スタンドカラーのシャツの方が。ボタンは外した方がいいかな?どうでしょう?」
ゆいが決めた衣装を卓人の控室へ持って行ってもらってる間に、カメラと一緒に置いてあったスマホを開けた。LINEは来ていたが健斗ではなく映からだった。しかもその内容は健斗のことだった。既読をつけた以上は返事を送らないといけない。でも時間がないのでとりあえずの返事を送った。
「卓人さん入られます!」
少し時間はかかったが、これから1着目の撮影が始まる。
1限の授業が終わった小百合は、席を立つ前にLINEをチェック。
「LINEがないってことは、無事始まったのかな。大丈夫だね」
小百合に来たLINEは2件。ユイと菜々から。
映が健斗のことを小百合に聞かなかったのは、バレンタインデー事件のことを知らないから。お互いが知り合いだということは知っていても、二人の間にどんなことがあったのかなんて小百合も話してないし、健斗も話していない。
あの事件のことを知っているのは、ゆいと由美、当時居合わせた瞳たちだけ。後、紗良と佳南は夏美の週刊誌ネタでバレてしまっている。
もうとっくに終わったことなので、たとえ思い出す様な出来事があっても口にする者はいない。
その健斗。映とはドラマ共演とゆいの共通の友達ということで、テレビ局や撮影所で会うと気軽に会話をする仲。もちろんゆいと小百合のことしか話題にならないが、健斗は仲間は多いが元々あまり心を開かない。それは生い立ちが映と似てるから。
そのことは事務所は公表していないのでウィキペディアにも掲載されていない。健斗という名前は芸名。本名は非公開。
二人の間に何かがあったのか、映がゆいに送ったLINEは
『健斗君のこと、信じてもいいのかな?』だった。
ゆいはどう答えたらいいのか分からず、夜の9時に電話するとだけ伝えた。
撮影は今のところ順調に進んでいる。担当さんを何度も唸らせるほどの出来栄え。卓人の素質もあるが、やっぱりゆいの腕があるから。その力が発揮できるのも小百合の一言があったから。
ゆいにとって士気を高める言葉は、小百合の一言。これなら今日は小百合にいい報告が出来そうだ。