風味絶佳 (文春文庫)/山田 詠美
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 久しぶりに山田詠美さんの小説を読みました

 学生の頃は大好きでたくさん読んでいたのですが、いつの間にか遠ざかっていました

 あんなに好きだったのに不思議…

 何年か振りに読んでみてまず思ったのは、以前とは作風が変わったかな?ということ

 以前はもっと赤裸々で、でも甘く濃厚な香りが伝わってくるような感じがしたと思うのですが、この作品にはどこかえぐみがあるような気がします

 あけすけな表現は形を潜め、トーンダウンしたエロスとは逆に、人間の暗部が際立ってきたような印象です

 何故か、よしもとばななさんの作品に雰囲気が似ているように思いました

 山田詠美さんもよしもとばななさんも全く同時に大好きで、当時出版されていた作品のほとんどを読んでいましたが、今まで似ているだなんて全く感じたことがなかったので、自分でも意外に思います

 でも、今思えば、表現方法が違うだけで、両者は言いたいことが似ているのかもしれません

 生き方の骨格みたいなものが、似ているのかもしれません


 さて、『風味絶佳』は表題作を含め6篇から成る短編小説集です

 表題作『風味絶佳』は映画化されていますね

 それに相応しい印象的なお話です

 『風味絶佳』には、主人公・志郎の祖母が登場します

 孫に自らをグランマと呼ばせ、若いボーイフレンドを侍らせる、発展家のおばあちゃんです

 志郎はグランマからレディファーストの英才教育(苦笑)を受けて育ち、今では洗練された身のこなしを自然と身につけている、今時珍しいジェントルマンですが、女の子からの受けはあまりよくありません

 「優し過ぎる」

 それが、志郎を拒む女の子たちの弁です

 私としては、なんて贅沢!と思いましたが、最後まで読み進んでわかったことが一つあります

 どんなに完璧なマナー、紳士的な所作であっても、ただ漫然と振舞っているだけでは駄目

 つまり、“意味”を持っているかどうかが大切なのかもしれないということです

 それは、「やらされている」のと「やる」の違いとも言えます

 志郎はレディファーストのマナーを身につけていたけれど、なぜレディーファーストなのか?ということを考えなかったのです

 そのことが敏感な女の子たちにはわかってしまったのでしょう

 グランマは志郎に形は教えたけれど、大事なエッセンスの部分は敢えて教えなかったんだなぁ

 自分で経験して覚えるほうが、きちんと身につくものですものね

 このグランマ、山田詠美さん自身の投影かな?って思ったり思わなかったり(笑)

 今の若い人たちに対するメッセージが籠められた作品のように思います