呪物館―人工憑霊蠱猫 (講談社文庫)/化野 燐
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 「人工憑霊蠱猫」シリーズの第5巻『呪物館』のご紹介です

 前作『件獣』で「本草霊恠図譜」(妖怪図鑑)を巡って新たな戦いの火蓋が切って落とされました

 さて、何度も登場する「本草霊恠図譜」とはどういうアイテムなのでしょうか


 「本草霊恠図譜」は、本シリーズの主人公の一人・美袋小夜子の先祖に当たる美袋玄山によって著された妖怪図鑑です


 美袋玄山と言う人物は、本草学者でしたが、鬼神(妖怪)の研究に没頭し、鬼神を自在に操るための言語を開発しました

 その言語は「妄想記述言語」と呼ばれています

 鬼神を操る能力のある人間が「妄想記述言語」を書くと、鬼神を召喚し使役することができます

 玄山の物した「本草霊恠図譜」には、鬼神の名前と絵、そしてその鬼神を召喚するための「妄想記述言語」が記載されています

 つまり、「本草霊恠図譜」を手に入れたことは、数多の鬼神を自由に使役する力を得るのと同じことなのです

 「本草霊恠図譜」が戦いの原因になるのにはこのような理由があったのです

 その上、「本草霊恠図譜」自体にも呪が掛かっており、それを手にした人間の意識に作用して、積極的に鬼神を召喚させようとします

 「本草霊恠図譜」が巷間にあると、鬼神が次々と蘇るという仕組みです


 「本草霊恠図譜」を執拗に狙い続ける「有鬼派」と呼ばれる組織は、鬼神と人間の共生を理念に掲げています

 彼らが「本草霊恠図譜」を手に入れたい理由は、鬼神使役者を人為的に生み出すため

 そして、鬼神を使役できるかどうかで人類を淘汰するためです


 それを阻止せんとするのが小夜子たち主人公グループなのです


 本作では、小夜子たちは「本草霊恠図譜」を封印するため「呪物館」にやってきます(本来呪物館を訪れた意図は違いますが、結果的にそうなりました)

 「呪物館」は呪力を持つ品物や、祟りをなす物を専門に収蔵する博物館です

 研究員たちはそういった品物を扱う専門的な知識に長けていますし、「本草霊恠図譜」を預けておくには最適な場所だと思われたのですが…

 なまじ付喪神的なものが集まった場所だけに、「本草霊恠図譜」の影響が強く及んでしまいます

 始まったのは、「呪物館」を器とした蠱毒法

 状況は大混戦です


 今回の話で感じたのは、「有鬼派」と言えど必ずしも全員が悪ではないのかもしれない、ということです

 「有鬼派」の中には、志を持って参入した人もいる

 それが今回初登場の僧侶・円海です

 彼は、小児医療の現場で僧侶としての限界、人間としての限界をまざまざと感じ、鬼神の力があれば多くの子どもたちを救えると思って「有鬼派」に加わった人でした

 今、死に逝く小さな命を目の前にしたら、やり方が汚いとか、正しくないとか、言えない…というか言っている場合じゃない

 そういう気持ちに共感できる自分がいます

 どうやらこの行はサブテーマだったらしく、扱いが小さいのが残念だったのですが、考えさせられました


 その他にも、人工知能ロボットの悲哀に似たテーマだったりとか、マッドサイエンティストの狂信だったりとか、扱うテーマがギュウギュウ詰めになっていて、読みどころが満載です

 満載過ぎて、混乱です(笑)