- きつねのはなし (新潮文庫)/森見 登美彦
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以前読んだ森見登美彦さんの『太陽の塔』とは明らかに違う作風のお話です
『太陽の塔』は、疾走感溢れる青春小説でしたが、今回ご紹介する『きつねのはなし』はホラー風の幻想小説
しっとりと濡れたような闇が肌にまとわりつくような怖さのある作品です
話のジャンルが違う以上に、文体までもが異なっていることに驚きました
『太陽の塔』では、一文一文が接続詞で連結されていて長く、熟語を多用しているので硬質
そのことが返って屁理屈さを表し、主人公の垢抜けないアキバ系なキャラを表現しきっていたと思います
しかし『きつねのはなし』では、冗長だった文が短くなり、訓読する言葉を用いる頻度が高くなっています
そこには泉鏡花や江戸川乱歩のような趣があります
淡々とした文章は、悲鳴を上げるような怖さではなく、背筋がゾクゾクし鳥肌が立つような怖さを醸し出しています
文体をここまで書き分け、そしてそれが成立する森見さんの筆力に感服しました
文章の妙、です
本作には4篇のお話が収録されています
それぞれのお話に共通するのは、芳蓮堂という古道具屋
芳蓮堂は単なる古物商ではなくて、どうやら曰く付きの品物を取り扱うお店のようです
その曰く付きの品物を巡って、登場人物は怪異に巻き込まれていきます
一つ一つのお話は、まぁ、怪談話です
ですが、この短編集を読み通すと、不思議な浮遊感を覚えます
というのも、先ほど各作品の共通項として挙げた芳蓮堂という共通点の細かな設定が作品ごとに微妙に異なるからです
客だった人物が店主になったり、作中作の登場人物になっていたり、読み進めるうちにその登場人物の設定がどんどん変わっていくのです
そのことで、時間の流れや場所などがだんだん不確かなものになり、自分の立ち位置がわからなくなってしまいます
どんどん闇に飲まれていくような不安が身を包みます
恐怖感がじわじわと心を侵蝕していきます
まさに夏向きの1冊です