ST 為朝伝説殺人ファイル<警視庁科学特捜班> (講談社文庫)/今野 敏
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 STシリーズ待望の文庫落ち(笑)

 「色シリーズ」に引き続き「旅と伝説シリーズ」の幕開けです

 本作は、昨日ご紹介した『彼女はたぶん魔法を使う』や『誰か Somebody』などと同じく事故か?殺人か?をテーマとした作品です

 相次いで起きた2件のベテランダイバーのダイビング中の死

 その事件現場がいずれも源為朝公所縁の地であったことから、ワイドショーの制作班が為朝と変死を関連付けて取材を開始した矢先、取材に出たワイドショーの女性キャスターが変死します

 巷間では為朝の呪いとの風説が立ち、警察も見過ごすことが出来ず、STに再調査の命が下ります

 法医学者にしてSTのリーダー・赤城左門の調査では、検死には疑問はないとのこと

 しかし、前2件のダイバーは友人同士であり、その上為朝伝説に興味を持っていたという証言が出て、すわ連続殺人かという疑惑が浮上します

 為朝を介して繋がる3人の死は果たして偶然か、連続殺人か、あるいは―――?

 というストーリーです


 今回改めて感じたのは、心理学者でプロファイリングを担当する青山翔の役割です

 彼は他のメンバーが収集した情報を構築し、事件に輪郭を与える役目です

 青山が立てた筋に裏づけを行って補強していく、というのがSTの捜査のやり方として定着しているようです

 青山の仮説は犯罪心理学を基にしており、心理学の理論や統計を応用するなど、普通の推測よりは論理性が高いといえます

 その上、裏づけや論証を怠らないため、さらに推理の論理性は高まっていると思います

 キャラクターの魅力も相俟って、本当に上質のミステリだと感じます

 また今回より「旅と伝説」をテーマにストーリーが作られていて、民俗学的興味を充足させてくれ、かつ旅行ガイドのような側面も加わり、さらに面白さ倍増です

 文庫本1冊の中にこれだけの要素を詰め込んで話を成立させる今野敏さんてすごい!

 是非一度ご高覧ください☆