ST警視庁科学特捜班 赤の調査ファイル (講談社文庫)/今野 敏
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 本日は、色名シリーズの中から『赤の調査ファイル』をご紹介します

 『赤の調査ファイル』でクローズアップされるのは、法医学担当・赤城左門です

 一匹狼を自認している彼ですが、不思議な魅力があり、彼の周りには自然とプロフェッショナルな人材が集まってきます

 妙な人望がある彼はSTのリーダー的存在です

 

 そんな彼が活躍する事件は、医療訴訟

 医師の処方した薬によりTEN(中毒性表皮壊死症)を起こし亡くなった男性の妻が、病院を相手取って民事訴訟を起こしましたが敗訴

 民事の敗訴を不服として、今度は業務上過失致死の疑いで刑事告訴に踏み切ったのです

 それを受けてSTは捜査に乗り出します

 訴えられたのは、赤城の出身大学である京和大学付属病院

 そこは教授をトップとする厳然たるヒエラルキー社会でした

 自らの名誉と保身のために部下に対し強権的に振舞う教授

 それに唯々諾々と従う講師や若手医師たち

 捜査に向かったSTたちは、大越教授が発令した箝口令の壁に突き当たります

 組織ぐるみで事実を隠蔽しようとする病院に、赤城はどう立ち向かうのか――


 今回の作品は医療ミステリーです

 医師不足とそれに伴う医師の超過労働

 カルテの改竄

 救急医療の現場

 教授を頂点とした階層社会

 様々な問題が複合している医療の現場を鋭くえぐった作品です

 医師は病気を診ているが患者を見ていない、という言葉には慄然としました

 確かに本作を読んでいると、肉体的にも精神的にも時間的にも状況的にも患者を丹念に診ている暇などなさそうに思えます

 これじゃあミスだって起こるよなぁ…

 でも問題なのは、起こしたミスを隠蔽すること

 口を拭って責任を回避することですよね

 赤城はそんな大学病院の体制に嫌気が差し、臨床医から法医学に転向した人間です

 かつて赤ひげ先生のような医師を志していた赤城にとって許しがたいことなのです

 赤城が病院側の責任をどのように追及していくのかは見物です

 そしてラストは驚愕

 赤城が呟いた言葉――

 「みんな理想を持って医者を志す。その理想を追いかけようとすると、こんなことが起きる。いったいなぜなんだろうな……」

 この言葉がしみじみと心に沁みました