精霊の守り人 (新潮文庫)/上橋 菜穂子
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 久しぶりに正統派ファンタジーを読みました

 ファンタジーは何よりも舞台構築が面白さの鍵を握っていると私は考えています

 物語世界の設定が揺らぐと、なんでもありの荒唐無稽な話になってしまうからです

 その点、この作品の設定はかなり緻密

 世界を構成する文化、風俗、歴史が整っており、物語に安定感をもたらしています

 元々は子供向けのレーベルで出版されたことも関係しているのかどうか、政治や経済など難しい話は書き込まれてはいませんが、きちんと踏まえた上での作品作りではないのかなぁという印象を受けました

 作者である上橋さんは文化人類学を研究していらっしゃる学者さんということで、この作品の緻密さにも納得です


 ストーリーは、女用心棒・バルサと新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムの逃亡劇です

 チャグム皇子は、伝説の水妖の卵を産み付けられたとして帝の差し向けた暗殺者に命を狙われています

 そこで、チャグム皇子の母親である二ノ妃はバルサに皇子を連れて逃げるよう依頼するのです

 バルサは幼い皇子を守り、追っ手をかわして逃げます

 一方で、皇子に生みつけられた卵を除去する方法を求めて呪術師・トロガイを探します

 伝説の水妖とは何か?

 皇子はどうなってしまうのか?


 侵略者の歴史と原住民族の歴史

 作られた歴史、忘れ去られた歴史

 今伝えられている歴史が必ずしも有りの儘を伝えているのではないということを作品を通して教えられます

 本作品では、失われた真実の歴史を暴き出すことが水妖退治の要となります

 それから、ファンタジーでは王道の要素である少年の成長

 皇宮の中で大切に育てられ、何もかも人任せだったチャグム皇子が慣れない逃亡生活の中で様々なことを学びます

 バルサには武道を学び、薬草師のタンダには知識を学びます

 また、青少年期に特有の不安定な情緒に加え、自分の境遇への憤りを抱え、悩み苦しみます

 これらの経験と、苦しみを乗り越える力とがチャグム皇子を大人へと成長させていきます

 そしてそれを見守るバルサ

 子育ては追体験といいますが、読んでいるこちら側もバルサと同じく自分の若い頃を思い出します

 子どもの視点と大人の視点を併せ持った作品です

 老若問わず楽しめると思います