- QED 神器封殺 (講談社文庫)/高田 崇史
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今回のQEDのテーマは、表題にもある通り「三種の神器」
三種の神器とは、天皇の御璽である八咫鏡、八尺瓊曲玉、天叢雲剣の3つです
QEDはミステリですが、他のミステリと一線を画すのは、用いられる題材が歴史だということです
しかも、通り一遍の歴史知識をただ並べるだけでなく、作者独自の歴史解釈が特徴的です
高田さんの歴史解釈は、史料に「騙り」と命名した言葉遊びのような手法が用いられているということを前提に、言葉一つ一つが本来どのような意味を持っていたのかということを考察して、史料の再解釈を行います
すると、今まで荒唐無稽なある意味ファンタジーのようにも読める史料が、現実的な意味を帯びていることが浮かび上がってきます
まるで暗号を解読しているようで、目から鱗が落ちるような爽快感が味わえるところが最高に面白いシリーズです
作品においてその歴史解釈がどのような意味を持っているかというと、その時々で様々なのですが、本作『神器封殺』では、犯人やその関係者の動機や行動原理に関わります
我々の生活が連綿と続いてきた歴史の上に立っているとすると、行動や思考が歴史的背景に裏打ちされているというのは納得できますよね
育った土地に独特の風習がある場合、他の土地の人にはその風習が非常識で奇異に見えることは間々あることです
その風習に端を発した事件では、その風習を知らない人には動機や行動原理の意味がまるでわからないということになります
今回の作品では、熱田記念病院のオーナー・熱田光明の殺害事件が起こります
熱田は、自宅マンションの一室で、頭部と右手首を切断された状態で、看護師とマンションの管理人によって発見されます
切断部位は、マンション下の庭からあっさりと発見
警察関係者は、切断の意図に頭を捻ります
普通、死体を損壊するには意味があります
例えば、身元の発覚を遅らせたり、死体を処分するためです
しかし、切断部位は隠されていなかったことから身元はすぐに判明しましたし、死体も処分されてはいません
あとは非常に強い恨みを抱いていたというケースですが、それにしては頭部と右手首だけというのは解せません
現場となったマンションは、セキュリティ万全の高級マンションですが、監視カメラの録画はされておらず、また管理人不在の時間帯に犯行が行われたため、目撃証言からの犯人特定は不可
マンションの鍵は複製不可能なタイプであるため、熱田自身が招きいれたか、もしくは鍵を持っていた人物ということで犯人を絞り込もうとしましたが、決め手に欠けます
それもこれも犯行動機が不明確なためです
唯一の手掛かりといえば特異な死体の状態なのですが、その意図がわからないとあってはお手上げです
そこで博覧強記の漢方薬剤師・桑原崇の出番なわけです
桑原崇は、本職は薬剤師ですが、趣味は寺社仏閣めぐりという歴史マニア
崇という感じが「祟る」という文字に似ていることから「タタル」という愛称(?)で親しまれています
これまでも深い歴史知識と考察が事件解明に役立ってきました
そして更に今回は、タタルと同様の歴史マニアで毒草師という肩書きを持つ御名形史紋という人物も登場します
タタルと御名形の歴史問答は圧巻です
熱田神宮の来歴、天照大神、素戔嗚尊、大国主命、そして三種の神器…
その考察だけでもすごいのに、それが事件に結びつくことに気づくのは更にすごい
全く意図しない展開に快哉を叫びたくなります
実際は叫ぶわけにはいかないので、「むむぅ~」と唸ってみたりします
さて、この『神器封殺』、形式の上では読みきりになっていますが、実は前作『QED~ventus~熊野の残照』の続編のような内容になっています
ん~、続編というよりは、『熊野の残照』がプロローグで『神器封殺』が本編、といったほうがより正確でしょうか?
『神器封殺』は『熊野の残照』を読んでいたほうが理解が早いです
そして『熊野の残照』は、他のQEDシリーズを読んでいないと面白さが半減です
また、御名形史紋を主人公にした『毒草師 QED AnotherStory』 が刊行されていますが、これは『神器封殺』を読んでいないと疎外感を感じます
つまり、QEDの一連の作品を読んでね、ということです
現在、『講談社文庫の100冊』フェアが開催されており、その中に『QED 六歌仙の暗号』がラインナップされています
QEDの第一作目は『QED 百人一首の呪』ですが、『六歌仙の暗号』から読んでも充分楽しめると思いますので、まだ未読の方はそちらを読んでから『熊野の残照』→『神器封殺』→『毒草師』と読むとよろしいかと思います☆
- QED 六歌仙の暗号 (講談社文庫)/高田 崇史
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- QED ventus 熊野の残照 (講談社文庫)/高田 崇史
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- 毒草師―QED Another Story (講談社ノベルス)/高田 崇史
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