- 黄色い目をした猫の幸せ (講談社文庫―薬屋探偵妖綺談)/高里 椎奈
- ¥790
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この作品は『銀の檻を溶かして』に続く薬屋探偵妖綺譚の第2弾です
第1弾も読んでいるはずなのですが、手元になくて、しかもどんな作品だったか忘れてしまいました(汗)
覚えていないということは、辛辣な言い方をすれば、それだけの作品だったということだと思います
それを証拠に、私はその後続刊を読もうとは思わなかったわけですから
シリーズ好きの私にしては珍しいことなのです
それなのに何故この作品を手に取ったかというと、Book-offで格安・状態良で販売していた上に、タイトルに“猫”という文字が見えたからに他なりません
誘われるようにして買ったこの作品は、本当に何かに誘われていたのかもしれません
“猫”のお導きです
本作は、前作とは対称的な良作です
前作の印象を引き摺ったままこのシリーズに手を出さなければ、出会うことはなかったでしょう
良い作品との巡り会いをみすみす逃すところでした
猫神様、ありがとう!
この作品のいいところは、「ちゃんと」ミステリである、というところです
タイトルが「妖綺譚」
ちょっとトンデモ系を予感させるタイトルで、また主要登場人物が妖怪というファンタジックな設定なのですが、こと推理に掛けては、状況証拠・物的証拠を収集し推理する、という常道を踏襲しています
ファンタジー要素を取り入れながらもミステリなのです
タイトルに「探偵」の文字が入っているだけのことはあります
その上に輪を掛けて評価できるのは、テーマ性です
今回の作品では、次の台詞が全てを表していると思います
「確かめられるなら、ちゃんと相手の気持ちを聞かなきゃ駄目よ。気持ちは普段の言葉や行動にはほんの少ししか映らないんだから」
この一言を語らせるために物語がある、と言っても過言ではないくらい、意味深く重要な言葉だと思います
作中の事件や諍いは、相手の気持ちを勝手に推測し、取り違えたことに原因します
人は、長く一緒にいる相手に対する特別な感情表現はしないものです
こんなに一緒に居るのだから、自分の気持ちは相手に伝わっているはずと思い込んでいます
ですが実際は、自分の気持ちは自分にしかわからないのです
殊更言葉に出さなければ伝わらないし、逆に不用意に口にした言葉が築き上げた信頼を壊すことだってあります
他者の気持ちというのは、言葉や表情、態度によって汲み取るしか知る術はありません
それが相手の本心と食い違っている可能性は間々あります
逆に、誤解されることだってあるのです
相互にコミュニケーションが取れて理解しあえていれば、起きない事件だったかもしれない
そう思うと溜め息が出ます
そしてこれは起こってしまった事件にだけ言えることではなくて、私たちの身の回りにも同様のことが言えるのだと思います
私は誰かを誤解していないだろうか
私の気持ちは伝わっているか
私は誰かを不快な気持ちにさせていないだろうか
自分の胸に手を当てて省みる必要がありそうです
大切な誰かと対話したくなる、そんな作品でした