葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)/歌野 晶午
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 こちらの作品も文春文庫の『いい男の35冊』にラインナップされた作品です

 なんとも文学的な格調高いタイトルですが、ミステリです

 歌野昌午さんがミステリ作家だと知っていればミステリだと気づくでしょうが、純文学系の作品だと誤解されそうですね

 どういう意図でこのタイトルを選んだのか、とても興味がありました

 葉桜という言葉は、普通あまりいい意味では使われません

 個人的には好きなんですが(笑)

 桜の花の時季を盛りとすると、葉桜は衰退の意です

 さらにそれを人生に置き換えると、老後とか晩年の意味になるかと思います

 そのことにもう少し早く気づいていてもよさそうなものなのですが、主たる登場人物が若者めいていたので、葉桜の示唆するところに全然気がつきませんでした

 というか、作者の明確な意図です

 これ以上はネタばれになる恐れがあるので明かせませんが、私にはそれが最大のトリックでした

 してやられました(笑)

 物語の終盤、それまで読み進めてきて自分なりに構築してきた物語の構成が揺らぎを見せ、それに対し、あんなに混乱し、動揺したのは久しぶりです

 そして、納得

 流石、各方面で絶賛されていることはあります

 これが歌野さんのデビュー作というのですからこれまたすごい

 読者の思い込みを利用した傑作です


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