殺人を呼んだ本―わたしの図書館 (角川文庫)/赤川 次郎
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赤川作品の特徴に、勝気で好奇心旺盛なヒロインと、弱気で甲斐性なしの男の子、というキャラ構成があります

今回の作品にも、三記子という変わった名前の元気な女の子と、好男という頼りないボーイフレンドが登場します

『三毛猫ホームズ』や『三姉妹探偵団』などにもこのような特徴があり、これは赤川作品のパターンなのでしょう

しかし、そのパターンが実にいい

好印象のキャラクターに感情移入しやすいということもありますが、作品の雰囲気がどこか懐かしく、親しみやすいのです

たとえば、昔からの友達に出会ったような…

赤川さんの作品は、どの作品でも安心して浸ることができる暖かさがあります


とはいえ、パターンがあるということは、「マンネリ」にもつながります

同じようなキャラクターが、殺人事件を解決する

それが似たような話にならないように、作者の方は腐心するのでしょう

そのために、アリバイ、密室、凶器、動機、殺害方法など、いろいろな設定が編み出されていますが、本作品の道具建てはなんと“本”です

本といっても単なる本ではなく、殺人現場にあった本や首吊の踏み台に使われた本など、犯罪や人の死に関わった本です

そういう本ばかり偏執的に蒐集したのが三記子の勤める野々宮図書館

いわくつきの本ばかりですから……出ます、あれが

本に染み付いた人の想いが、形になっちゃうんですね~(敢えて明言は避けます)

三記子が管理人に就任してからというもの、そういったものがしょっちゅう現れることになります

あるときは、失踪事件

あるときは、一家心中

あるときは、冤罪

またあるときは、遺産争い

三記子はそれに同情したり、ほだされたり、義憤を感じたりして、無念の想いたちを晴らすために謎に立ち向かいます

題名は物々しいですが、三記子の正義感ゆえか、邪なものには鉄槌が下り、善き想いが救われる、いいお話です


この作品は、実は以前紹介したニンテンドーDSソフト『夜想曲』の原作です

ゲームのほうには、赤川作品の持つ明るさや溌溂さはありませんが、殺人事件や被害者の気持ちに真摯になれる作品になっています

そちらのほうも是非、プレイしてみてください