昔は危ない人にも暴走族にも好かれた

生粋の硬派というイメージがあったのは

矢沢永吉だった気がする。

自分が育った時代はそうだった。

どんなに喚き散らしても迷惑はかけない。

そんなイメージがあった。

キャロルの頃からそんなイメージがある。

オレは余り好きじゃなかった。

無謀で怖いもの知らずなイメージ。



オレには施設で世話になった兄貴が

二人いるが、1番上の兄貴と呼ばれる

人はとても怖い人だった記憶がある。

無愛想で何か話しても暫く黙る。

人を寄せ付けないオーラバリバリ全開。

免許を取得する頃にはバイクが届いてる。

シートベルトをしない理由を訊ねると

オレは他人に迷惑はかけないとしか

言わない。全く理由にもなっていない。


もう1人の兄貴はとても優しい。

諍いごとを嫌う人。

シートベルトもしっかりするが容姿は

チャラ男。オレはとても懐いていたし

女性にモテる性格でもあった。


前者が長男、後者が次男とした時

次男は長男をとても好きだった。

助け合ってやってきたようだった。

次男は長男を矢沢永吉に例えたりする。

長男が施設を脱走してアバラ家で

生活をするようになった頃、次男は

長男の所で自由に暮らそうと言い出した。

その頃は話をすることもなかったので

怖かったことを覚えてる。


3人の暮らしが始まっても長男は無口で

次男はよく喋るタイプでオレはといえば

学校でイジめに遭っていた。

誰にも言えなかったが長男だけは気付き

学校に乗り込んできた。

長身の金髪、短ランドカンで木刀を持ち

先生の制しを振り切り怒鳴り散らした。

みんなの前で正論で論破した。

それからオレのイジめはなくなったが

なぜか、モヤモヤした気持ちだった。


高校や大学に行かせてくれたのも

長男だった。

次男はよく食事を作ってくれた。


今日はそんなことを思い出しながら

長男がやってみないかという会社の

書類にサインをした。

オレなんかに任せてくれるのかと思った。

次男は昨日、しっかり話し合ったらしい。

オレは自分で大丈夫なのかと訊いたが

やれる所までやってみたらいい、

お前なら大丈夫だと思ってると言われた。


ずっと感謝してきたが

今日は特別感謝をしている。

もしも高校や大学に行かなければ

長男は自分のためだけに生きてこれたと

思うし、一緒に暮らしていなければ

もっと自由に生きてこれただろうと思う。

1番迷惑をかけた人間に大事な会社を

任せることは相当な覚悟だと思った。

体調不良を理由にしてたけど本当は

違うんだと思った。


今日からオレは社長になった。

どこまで出来るのかは分からないけど

期待に応えようと思った日だった。

兄貴、ありがとう。