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問　　

教授、教え授けて下さい。
男たちが集まって、もしもですが無人島に流刑されたとする、しかし恩情で一冊の本だけ持っていくことが許されている。さてあなたの一冊は　という話が持ち上がった。どどのつまりが、辞海、、玄海、広辞苑、大玄海、どれでもいいんですが、やはり国語辞典に尽きる　という結論に達した。そこで家に帰って広辞苑をそここことランダムに広げたのですが、革命、芸術、学習、修行、勤勉、計画、能力、出世、栄華、浮気、裁判、失敗、退廃、死亡、永眠、この文字の組み合わせの絶妙さ、いやはやひれ伏すほど感嘆致しました。命をかけた改革、行動して修める、華やかに栄える/・・・どれひとつ、なにひとつと取り上げたたところで、そこから香り立つ背景や意味謂われが手に取るように理解できる絶妙さ。こんな素晴らしいものが世の中にあったのかと驚嘆しました。辞典一冊あれば確かに無人島に流されても決して退屈はしない、というよりも何故いままで辞典の素晴らしさに気付かず隅から隅まで網羅しなかったかと猛省している次第です。開けばすべての謎が解ける辞典は人類の財産です。ところが辞典を繰っても開いてもわからない言葉があって教授の門をたたいた次第です。
上戸、下戸です。これが何で酒と関係があるのか。上の戸と下の戸となると何となく淫靡なる世界が想像されて、すかさず教授の顔が思い出されたわけです。
どうか、お答をよろしくお願いいたします。あっ、それと教授が無人島に流されたときにお持ちになられる御本をお教え下さい。（37歳男性）

答　　

淫靡な世界が湧いてきて、私の顔が浮かんでくるというのには、全面的に喜べないが、まず最初に感謝申し上げます。
無人島に島流しにされたとして、一冊の本だけ持ちこむことが許されたとしたら、マスターは一体どんな本を持っていくか、という質問を頂だいしたが、もちろんあなたと一緒、辞典です。辞典は幼少のころからいつも手元に置いていた。あの高さが実に私にあっていた。ただし、私は読書や学問が趣味でなく、睡眠が趣味だったので、ちょうどまくらぐらいの高さの辞典は、とても重宝した。特に授業中には欠かせなかった。それが学生時代からの習慣になっていて、今さら変えろ、と言われても土台無理な話だ。それにまくらが変わると寝れない性質なので、持って行くとしたら、やっぱ辞典です、私の場合も。
さて、上戸と下戸ですが、ここに秦の始皇帝という中国史上最初の統一国家を築いた王がいる。万里の長城を増築したり、兵馬俑や阿房宮を築造したどえらい王様なわけです。
日本では徳川幕府がこの始皇帝が行った、郡県制度これは親藩、外様の制度、阿房宮は大奥、万里の長城工事は臣下の力を削ぐ、参勤交代へと姿は替えているが真似たものである。
あなたが素晴らしいと言った漢字は、それを遡る殷の時代にはすでに用いられていた。それを秦に続く中国統一第二王朝漢の時代に公用文字にした。その間、長い年月のを掛けて揉んだりさすったりして改良簡略改善がなされてそこにたどり着いた。それは恐ろしく膨大な歳月と汗だった。多くの国を治めようとするときは、暦を統一したり、文字を統一したり、言葉を統一したり、法を統一する。それが国を統一するということだ。数万枚のマニュアル書を作って、国を取ったような気でいる昨今勃興している企業の苦労と苦労の次元が違います。
回答は横道に逸れましたが、始皇帝が作った「万里の長城」は、人工衛星から見える地球上ただ一つの人口建造物であります。臣下の力を削ぐために造らせたとはいえ、大義名分は北方の外敵「匈奴」を防がんがのためです。
この長城が又とんでもない山のてっぺんだったり、砂漠地帯であったり、崖の上だったりで大変な所に造られているのです。
さて、このとんでもない何にもない僻地で昼夜を問わず番兵たちが、匈奴の来襲に備えて立ち続けていたのです。長城は所々に石造りの櫓が立っていますが、大概は二層になっています。一階は兵舎、武器庫、食堂、事務室、宿舎になっています。番兵は城壁の上に立つ者と一階の門戸を守る番兵との二手に分かれていた。冬には下の門戸を守る番兵たちはまだしも、上を守る番兵たちは、山の頂上の崖の上の城壁の警備ではたまったものではありませんでした。
寒風に曝され上を守る番兵たちは病気に侵され、戦意は衰えていった。それを案じた始皇帝は、上を守る番兵たちに通年酒を支給し、酒で暖を取ることを許した。ところが下の門戸を守る番兵たちには、城壁の中の任務のため酒は支給されなかった。上を守る番兵たちは、寒いと言っては飲み、風邪気味だと言っては飲み、雨だ、風だ、天気だ、暇だと言っては飲んだ。
こうしたことから酒飲みの酒の強いものは上の番兵、酒の飲めない弱い番兵たちを下の番兵というようになった。そのうち下の門戸を守る者を下戸番、上の番兵を上戸番と呼ぶようになったが、しかしもっぱら酒飲みのことを上戸、弱い人や全く飲めない人を下戸というように使われることとなった。これが回答です。
どうですか。上の口、」下の口で淫靡なる世界をさまよった末に私の顔が浮かんだということですが、この解答をご覧になられてもまだ、私の顔が淫靡な世界とダブってお見えになりますかな。
　