彼は、大人になるまでの過程で、さまざまな失敗をし、それをもとに処世術を身につけた。そこで、彼の小さな息子に、下手な失敗をするくらいなら、あらかじめ知っていてもらったほうがいい、とばかり、それらを伝授しようと、物心つくかつかぬかのうちから、ことごとく伝授した。
だが、結果は惨憺たるもので、小さな息子は成長するごと、彼と同じ失敗を繰り返した。
「なあ、息子よ、俺が教えたことが何も役に立っていないってのは、いったいどういうことなんだ?それは、お前がバカということか?」
息子は表情を変えることなく答えた。
「教えてくれたことはありがたいけど、実際に経験してみなきゃわからないことだってたくさんあるんだよ。バカってのはね、言われたことを鵜呑みにするやつのことさ。僕はバカじゃないから、実際にどうなるのかを検証してから判断することにしているんだよ。経験することで『正しいのか正しくないのか』わかるだろ?」
彼は「自分が正しい」と思い込んでいたその思い込みを、この時の息子の言葉に触れ、初めて理解した。







