青い蛍光灯に照らされた深夜の外廊下。自分の部屋へ向かうまでの、ただまっすぐ歩く20秒間。

一日、20秒。86400秒分の20秒。

この貴重な20秒は、悩ましい時間からすぽっと抜けることができる、俺にとって最も貴重な時間なのだ。

今夜は、妻とともに歩むことを決めた日時が内側に刻印された、分厚いデザインの結婚指輪のことを考えた。

今、まさに左の薬指に収まっている、この結婚指輪だ。



なぜ指輪のことを?などは推測しないでほしい。

なぜなんて、つきつめるところ、本人にも分からない。わからないままふつふつと湧いてくるものだ。

湧きあがる思考は1秒ごとに展開し、結果として、指輪そのものの存在よりも、我らの記念碑を作ってくれた「たまちゃん」のことを思った。

大切な指輪を作ってくれてありがとう。

たまちゃんは妻の友人だ。だから俺はあまりよく知らない。知らないが、大切な妻の友人なのだから、やはり我らにとっては尊い存在なのだろう。

たまちゃん、俺たちには、思い出は何よりの財産だから、それをバックアップしてくれて、ありがとう。

鍵を開けて、玄関に入ったら、思い出は何よりの財産、というセンテンスから、幼馴染の石田を思った。

たまちゃんにありがとうなら、石田にもありがとう、だ。

靴を脱ぎながら田村や宮林や長谷川のことを、うがいをしながらマスターのことを、服を着替えながらあの人、この人のこと、そう言いながら、本当は全員の名前をここに記したいが、記しきれないので割愛するが、申し訳ないが、実にいろんな人に支えられているなあ、と感じた、それを感じさせるきっかけとなった今夜の20秒であった。



にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ
にほんブログ村