高速で移動し続けると、時間の流れが緩やかになり、一般的な時間の流れの外に出る事が出来るとか何とか、そんなことを子供の頃の科学雑誌で読んだことがあった。

なので、小さい頃は新幹線の運転手になりたかった。

十代の頃には、ジェット戦闘機に乗りたいと思った。

二十歳の頃には、オートバイのグランプリレーサーにあこがれた。

そして今、四十代。毎日が移動移動の営業職で、どんな時間よりも、営業車を転がす時間ばかりが、自分の時間の大部分を占めるようになっていた。

どうか信号が変わりませんように、どうかアホな初心者がタラタラ走っていませんように、とばかり思いながら、あちらこちらへ高速移動する毎日。

今こそ、自分のどの過去よりも、時間の流れを緩やかにしているはずなのに、どうも急激に歳をとった様に思う。


止まろう。


いいじゃないか。いずれ時間の果てに消えてゆくものばかりの世の中で、しぶとく残ることばかり思う方が、野暮ったい。

スピードへのあこがれ、追及は、時間を止めたいがためじゃない、快楽を得んための手段なのだ。

そんな簡単なことを悟るまでに、40年かかった。人生のたいていの時間はバカバカしいことの連続で、いらぬ心配ばかりするものだから、わが身は加速度的に老けてゆく。



にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へ


にほんブログ村