初夏の頃の雨上がりの夜・・・いや、時期的にはもうちょっと前だ、ようやく夜風も心地よく暖かくなってきた頃の、春と夏のはざまの、ほんとうに短い独特の季節。
湿度を帯びた風が、雨上がりの、路面いっぱいキラキラと反射する、気分満載の夜の歓楽街を通り抜けるなか、目的も無くさ迷い歩く酔っ払い気分に浸ることの快楽。
イカした白いクーペが横を通り抜けるとき、奴のカーステレオからはクールなサキソフォンの鳴き声が迫って、一瞬のドップラー効果で遠ざかる。
誰か愛しいひとが待っているわけじゃない、何か面白いイベントが約束されているわけじゃない、でも、風と光の向こうに、湿り気を帯びた、エロチックな、妙チクリンな何かを期待して、ひとりきりでフラフラと、湿った夜の街路を歩くのは、なかなかの贅沢だ。
酔っ払いの笑みに意味などない。さっきのマティニの味を思い出しながら、相手があるわけでもなく、漠然と恋をするのだ。