じりじりと太陽の照りつける夏の朝、午前8時10分。信号を待つ一団の中、ふと横を見ると、すぐ隣に良く知る顔を発見した。
6年ぶりに、後輩と出くわした。
「あれ?よお、ひさしぶりじゃねえの」
ひさしぶりと言われた相手は最初、自分の事ではないと無視していたが、何かを思い出したようにきょろきょろし始めて、隣の俺を発見したようだった。
「はい」
はい、か。
普通、あ、おひさしぶりですね、とか、最近どうしてますか?みたいになりそうなシチュエィションだったが、別段、会う約束をしていたわけでもないから、特別な言葉など用意していなくてあたりまえだったかも知れない。
それはこちらとて同じことで、挨拶はしたものの、話すべき内容なんて思いつかなかった。
長い沈黙があった。
「おれ・・・そこなんだ」
「あ、自分はこっちです」
「子供、どうした?」
「あ、はい、今年1年生になりましたよ」
「そうか・・・じゃあ、まあ、またな」
「あ、はい、また」
本当は語りたい事がいっぱいあるんだ。
でも、大人になればなるほど、抱える諸問題に思考を阻まれ、人類最大の敵「めんどくさい」に打ち負かされてしまうのだ。
でも、でも!本当はそこらのドトールか何かに立ち寄り、語りたい事がいぱいあるのだ。
だから、また明日もこの時間、ここで信号待ちしてろよ。毎日ちょっとでも話す様になれば、少しずつ語る語彙も増えてゆき、そのうち「めんどくさ」くなくなるから。な。