死の寺で見た月は、漆黒の地上の、漆黒の境内に、それだけが唯一の光であるかのように輝いた。
たくさんの良いものが光に乗って、これ以上暗くないであろう死の寺の、火山岩でこしらえた真っ黒な割れ門から、そっと、入ってくる。満月の晩、漆黒の寺の境内に額づく善男善女、ひとりひとりの、頭の上の、生まれつき備えた精霊たちと繋がり、反応し、震え、震えて、特殊な音楽を聴く。
良いものを運ぶ月の光は、地上に様々な特殊効果をもたらす。スペクトルを変化させ、周波数を変化させ、夜空を、雲を、木々を、水を、人々の瞳を、心を、変色させ、輝かせ、震わせ、やがてその変化は大きなうねりとなり、聴いたこともない妙な音楽となって大気を渡る。
月に一度、満月の晩に、海のそばの死の寺で、百年、二百年・・・ そして今夜も、月明かりの道を、供え物と香をもち、人々は集い、額づき、良いものを迎え、魂を震わせているのだろう。
月の光は、白い。
白は何でも含んでいる。
今宵はアブサンをあおりながら月を愛で、月を愛で、月を愛で、酔いが過ぎた。
もう帰って寝よう。
お休み、十五夜お月様。
いつもお顔を拝見できて、嬉しいです。
なんだか、今夜はあなたが二つに見えます。
