この夏はじめてのセミに遭遇した。
残業帰りの午後11時、電柱の街灯の下で、親指大の羽虫が、腹を見せながらジタバタしていたから、指先でひょいっと引っくり返してみたら、驚いた事に小さなセミだったのだ。
この時期、まだセミの鳴き声すら聞いていないのに、アスファルトの上うずくまるセミは、指で押しても、飛ぼうとはしなかった。
サイズがすこぶる小さいから、このセミはきっとメスなのだろう。
きっと初夏のころにあらわれるタイプのセミなのだろうけど、俺は専門的な知識が無いから、これがなんと言う名前のセミかはわからない。
でも、彼女は既におばあちゃんであることは分かる。
7年ものながきにわたって、土の中で生活してきた彼女は、我が身の生の最後に、夏という楽園で開催されるパーティに出席するため、やっとこやっとこ地上にあらわれたのだ。
もうすぐすると、彼女らのお仲間、やんちゃなパーティーじじいたちが、わんさかわんさか騒ぎ出す。
だから、キミはアスファルトの上に佇むだけで満足しちゃダメなんだ。
満足しちゃダメなんだよ。
夏はこれからだぜ?