よっちゃんと電話で話した。
池田さんが「カフェ楽屋が再開したよ」と知らせてくれたので確認したかったから電話したのだが、本音を言うと、そればかりが理由ではなかった。
ロックンロール イズ デッド!

世の中、変わらないものを見つける方が難しい。
地元から離れ、なじみの薄い土地で新しい生活をはじめた。昔の仲間たちだって同じ様な感じだ。皆、時間と共に護るべき新しい境遇を手に入れ、些事にかまけて一夜の素晴らしい乱痴気騒ぎから遠ざかる。
思えば2年も3年も会わないでいる友人が居る。会いたい。皆で集まって、昔みたいに泥酔会をやろうよ。
「蹴ってもいいかな?」
「蹴ってもいいよ!俺、腹筋鍛えてるもん!」って言って、腹を蹴りあう馬鹿騒ぎをしようよ。
「ぶってもいいかな?」
「ぶってもいいよ!腹筋鍛えてるもーん!」って。
俺が思う様に、皆も思ってくれているだろうか、最近にしPに会ってないな、会いたいな、とか。にしPのジェームスが見たいな、とか。多分思っているに違いない。いいよ、ジェームスやるよ、俺。

思い出は美しくて、楽しくて、エネルギーに溢れているが、残念ながら俺たちは腑抜けたおじさんおばさんになってしまった。つまり「めんどくさい」に負けている。
色んな事がめんどくさくなった。
だから、今日だって電話で済ますのだ。
「で、誰がやってるの?」
「トラちゃんがやってたんだけど、オーナーと衝突したみたいで居なくなっちゃったの」
「居なくなった?」
「逃げちゃったのよ」
「じゃ、トラさん行方不明?」
「そう」
トラさんの屈託の無い笑顔や、笑うと無くなる目を思い出す。

めんどくさいの一番の原因は、つまり、体力が落ちたのだ。
腹筋を鍛えていないのだ。
体力さえ準備されていれば、めんどくさい事など何も無い。
残念ながら「めんどくさい」が俺たちの貪欲だった行動を規制し、規制された肉体は、今までの様な瞬発力のある運動をしなくなる。そして必要とされていた筋肉は衰え、動くことが困難になり、やがて「疲れるから」という理由で完全に停止する。その肉体で乱痴気騒ぎを再現するのは、
ほぼ絶望的。
俺はよっちゃんに訴えた。
「もうね、最近嫌で嫌でしょうがないのは、皆に会えないって事なんだよ。何とかしようよ」
「じゃあ、東川口で昼ご飯でも食べようか」

リスクなし。









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