ルビーという石は、いわばアルミニウムの結晶だ。純粋なアルミニウム結晶は無色透明で、それだけではルビーではない。そこに極々わずかな異物が混入し、それがもとで美しい血の赤を発色する。赤い石として成長して初めてルビーと呼ぶことが出来る。
この異物は混入の割合が絶妙で、ほんの0.0数パーセント多くても少なくても、ルビーの赤を発色しなくなる。

じゃあ、偶然を逸した石は何と呼べばいいのか。
実は、ルビー以外のアルミニウム結晶をサファイアと呼ぶ。
どうだろう。そう考えると、ルビーのいかに稀有であることか。
我々の心もそれに似て、心の中に混入する極々わずかな何かが、自分を自分たらしめている様。
自分を保つために死守している、ほんの0.0数パーセントの微細な異物に、我々のアイデンティティーは支配されているのだ。


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