プールサイドの黒いピクシー、正体不明のサンプラザ中野似のトレンチコート男、見覚えのある背の高いB系ダンス男、20歳になったばかりであろう背伸びした男の子たち、ウインクを投げてきた白人の痩せマッチョホモ、カウンターの隣で手巻きのロレックスを自慢していたオフィスレディ、酒を買う列に割り込みする「世の乱れ」を批判する細いあごの帰国子女、4人の男どもを従えたラウンジの女王、居るわ居るわ、相変わらずへんてこりんな奴らがそこに居た。

最後にageHaに出向いたのが3年前だった。それからageHaがどんなふうになったのか、見てみたかったのだ。

汚くなった。何しろ汚い。

ageHaも、もう6年を数える。そりゃ6年も使ってれば汚くなるよ、換気扇の周りは真っ黒、カーペットはベタベタ、トイレは落書きだらけ、クラブとはそんなもんだ、と言いたきゃ言えばいいが、周辺のクラブがそうだからと言って、自分のところもそれでいい、なんて右へならえの精神では、先が無いと思う。

そんなことじゃいけない、美意識は貫いて欲しいと思う。

期待していた事が的外れだったことも、3年のブランクを感じさせた。

プールに松岡さんが居なかった。

ルチアーノが居なかった。

晃代ちゃんが居なかった。

知っているスタッフが居なかった。

時代は刻々と変化する。頭じゃ分かっていても、それを目の当たりにしたときのショックは、ちょっとやられる。



俺にとって帰るべき懐かしい場所は何処かな。

三和町の家かな。

三和町は旧町名で、もうとっくの昔に廃止になった町名だ。もう無い。

この間、母と妻と三人で、たまたま、昔住んでいた懐かしい「我が家」の前を通りかかった。

お隣の落合の叔母さんが窓から顔を出した。

あたしも、もう75よ、おばあちゃん元気?幾つになられたの?あらまあ、お元気?そうなの、会いたいわねぇ、連れていらっしゃいよ、どうせあたしもヒマなんだから、お茶くらい出すわよ。

叔母さんは、俺と嫁を見て「幸せにね」と言ってくれた。

幸せにね  幸せにね

叔母さん、幸せって、どうしたらいいのだろう。

三和町の家を買い戻せば、幸せなのか?だがそこには家という名の建物しかないわけで、離散した我々家族がそこに再集結するわけでもなく、買わなければいけない理由が見つからない。



我々は否応無く旅をしている。

旅の空の下、様々なドラマと出会い、ドラマは次のドラマを連れてくる。ひっきりなしに新しい人間関係がやってくる。

そんなことの繰り返しで、帰る場所は都度変わる。全ては流れ移り行くのが摂理。

帰る場所は、今を生きる俺が、我々が、作らなくちゃいけないものなんだ。