地元から離れ、なじみの薄い土地で新しい生活をはじめた。昔の仲間たちだって、きっと同じ様な感じだ。皆、時間と共に護るべき新しい境遇を手に入れ、些事にかまけて、夜毎の素晴らしい乱痴気騒ぎから遠ざかる。
思えば2年も3年も会わないでいる友人が大勢居る。会いたい。皆で集まって、昔みたいに泥酔会をやろうよ。
ボトルを15秒で空っぽにするバカをやろうよ。
「蹴ってもいいかな?」
「蹴ってもいいよ!俺、腹筋鍛えてるもん!」って言って、腹を蹴りあう物騒な騒ぎをしようよ。
「ぶってもいいかな?」
「ぶってもいいよ!腹筋鍛えてるもーん!」って。
俺が思う様に、皆も思ってくれているだろうか、最近にしPに会ってないな、会いたいな、とか。にしPのジェームスが見たいな、とか、思ってくれてるかな。多分思っているに違いない。そうか、ならいいよ、ジェームスやるよ、俺。 頑張っちゃう。
思い出は美しくて、楽しくて、よく分からないエネルギーに溢れているが、今となっては残念ながら俺たちは腑抜けたおじさんおばさんになってしまった。つまり「めんどくさい」に負けているのだ。
色んな事がめんどくさくなった。
だから、今日だって電話で済ませる。
「で、誰がやってるの?」
閉鎖された溜まり場が再開されたと聞いて、俺はよっちゃんに電話をした。
「トラちゃんがやってたんだけど、オーナーと衝突したみたいで居なくなっちゃったの」 「居なくなった?」
「逃げちゃったのよ」
「じゃ、トラさん行方不明?」
「そう」
トラさんの屈託の無い笑顔や、笑うと無くなる目を思い出す。
それを言っちゃあ、おしめぇよォ・・とか言っていたのを思い出す。
再開は一瞬の輝きだったか。
めんどくさいの一番の原因は、つまり、体力が落ちたのだ。
腹筋を鍛えていない。
体力さえ準備されていれば、めんどくさい事など何も無い。
残念ながら「めんどくさい」が俺たちの貪欲だった行動を規制し、規制された肉体は、今までの様な瞬発力のある運動をしなくなる。しなくなれば、しないのがあたりまえになる悪循環。かつて必要とされていた筋肉は衰え、動くことが困難になり、やがて「疲れるから」という簡単な理由で完全に停止する。衰えた肉体で乱痴気騒ぎを再現するのはほぼ絶望的。
俺はよっちゃんに訴えた。
「もうね、最近嫌で嫌でしょうがないのは、皆に会えないって事なんだよ。何とかしようよ」
「じゃあ、東川口で昼ご飯でも食べようか」