小学生の高学年、夏休み。俺は一人で川をさかのぼっていた。
土手の内側は水田になっており、青々とした稲穂が俺の360度を取りまいていた。
すっかり水気を失った埃っぽい農道を、時速10キロという無邪気なスピードで進んだ。
雲ひとつ無い快晴の青空だった。それなのに遠い雷鳴が聞こえ、それはしばらくの間、続いた。
途中のどが渇いて、持参した水筒に入った麦茶を飲んだ。
子供の頃の麦茶は砂糖が入っていて甘くて美味しかった。 道端に自転車を倒して、その傍らに座り麦茶を飲んでいると、100メートルくらい先の水田の上に無数の輝く粒子がクルクルと舞い踊っているのが見えた。
なんだろう、と思って立ち上がり、その粒子の踊りを見ていると、その中心に見えていた向こう側の景色が「ぐにゃ」っと渦巻き状にねじれた。
背景をねじ込んで、得体の知れぬ渦巻きは段々大きく球状になりながらゆっくり上昇し始めた。
快晴の空に上昇した渦巻きは、背景が無いせいか、もう渦巻きには見えなかったが、青い空にほんのりと丸い輪郭を映しながらゆっくりとしたスピードで上昇を続けた。
上昇を続ける渦巻きのあとからは、先ほどまで水田の上で舞い踊っていた輝く粒子たちが帯状に続いていた。
青空に丸いうねうねした何かと、キラキラ光る天の川の様な粒子の帯がゆらゆらと昇っていった。
俺は、それらがずっとずっと上空まで昇り、空に溶け込んで分からなくなるまで見上げていた。
夜、田んぼでの不思議な出来事を祖母に話すと、それは狸の仕業だと言った。
祖母は不思議な出来事は大抵狐か狸のせいにした。
俺は決して狸の仕業だとは思わなかったが、不思議と云うよりも美しいものを見た感動の方が大きくて、それを祖母に訴えたかった。
その晩、祖母は、幼い日に竹やぶの中で見た「巨大な青い火の玉」の話をした。