だあれも居ない繁華街の深夜、空気にはある程度の湿度が感じられた。

風速1メートルの緩い風が吹き、半袖から露出している腕をくすぐった。

深夜、俺の心をざわつかせる季節風。

懐かしいこの匂い。夏が始まる匂いだ。

よっぱらいの俺はだあれも居ない繁華街をふらふらと歩いた。

深夜だというのにツバメが鳴いていた。

なじみのツバメだった。

昼間見たツバメはつがいの筈だったが、この深夜に鳴くツバメにはきっとパートナーが居なかった。

寝ている隙にどこかに出て行ってしまったのだ。

それで心細くなって巣から出て鳴いているのだ。

今ごろ、出て行ったツバメは、別のツバメの巣で寝ているのだろうか、とか、そんな事を考えた。

星ばかり輝く深夜に大声で鳴く。

明日の朝まで鳴いて、それでも戻ってこなかったら諦めるのだろうか。

ツバメの側を通り過ぎ、しばらく歩いても、かの鳴き声がずっと聞こえていた。
いつもは大渋滞している大通り、右を向いても左を向いても車一台居なかった。

よっぱらいの俺はセンターラインを、綱渡りする真似をしながら歩いた。

タバコを吸った。はちみつの味がした。












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