満月は梅雨明け近い夜の曇り空に虹を掛けた。
幾分かの慰めになるだろうと、しばし空を見つめたが、その光線はイヴァン・リンスの切ないラブソングみたいに俺を追いつめた。
何かしなきゃ心臓が破裂しそうだったのでビールを飲んだ。
昔のビールの味がした。
わからない。
どんなに経験を積んでも、自分の心に忠実に生きていると、堪え難い感情に打ちのめされる事がある。
俺も40だ。たいていの経験は積んできた筈なのに、恋心に締め付けられるのは十代の頃と何ら変わらない。
人は何歳になっても恋心にやられるのだ。
生きていく上で越えなければならない難関が、天竺を遮るヒマラヤの様に次から次へと俺の前に立ちはだかる。日常とは、日々の暮らしとは、そう言うものだ。
が、たかが日常がヒマラヤなら、より高く、いや、高い訳じゃない、神の様に普遍的に存在する、空気の様に掴みどころなく遍く存在する、そんな厄介な代物が、多分、恋なのだろう。
幾分かの慰めになるだろうと、しばし空を見つめたが、その光線はイヴァン・リンスの切ないラブソングみたいに俺を追いつめた。
何かしなきゃ心臓が破裂しそうだったのでビールを飲んだ。
昔のビールの味がした。
わからない。
どんなに経験を積んでも、自分の心に忠実に生きていると、堪え難い感情に打ちのめされる事がある。
俺も40だ。たいていの経験は積んできた筈なのに、恋心に締め付けられるのは十代の頃と何ら変わらない。
人は何歳になっても恋心にやられるのだ。
生きていく上で越えなければならない難関が、天竺を遮るヒマラヤの様に次から次へと俺の前に立ちはだかる。日常とは、日々の暮らしとは、そう言うものだ。
が、たかが日常がヒマラヤなら、より高く、いや、高い訳じゃない、神の様に普遍的に存在する、空気の様に掴みどころなく遍く存在する、そんな厄介な代物が、多分、恋なのだろう。
「超えられない未踏峰か」俺は500ミリのビールを1分で飲み干すと、気に入りのグラスに氷をほうり込み並々とバーボンを注いだ。
忌ま忌ましい夜の虹は消えかけていた。
良く見る夢がある。
子供の頃をすごした我が家。それは夜で、人の気配がなくて、ただ蛍光灯だけが、これでもか、とばかり各部屋を緑色に染めている。
暗い夜の街に、懐かしい我が家には緑色の光線を瞬かせる蛍光灯のみが自己主張している。
誰も居ない、その居ない事が全ての答の様で、吐き気がするほど淋しい風景なのだ。
忌ま忌ましい夜の虹は消えかけていた。
良く見る夢がある。
子供の頃をすごした我が家。それは夜で、人の気配がなくて、ただ蛍光灯だけが、これでもか、とばかり各部屋を緑色に染めている。
暗い夜の街に、懐かしい我が家には緑色の光線を瞬かせる蛍光灯のみが自己主張している。
誰も居ない、その居ない事が全ての答の様で、吐き気がするほど淋しい風景なのだ。
誰も居ない。
少しうたた寝をしていた様だ。
独り暮しの部屋は、ほぼ何の変化も無く俺を見守っていた。
放り出した本の位置、灰皿代わりの空き缶の位置、脱ぎ捨てられたワイシャツの位置や形状。
変わったことと言えば、CDプレイヤーから流れているのがオリビアじゃなくて10ccだった事と、夜の虹が消えて弱い雨が降り出した事くらいだった。
少しうたた寝をしていた様だ。
独り暮しの部屋は、ほぼ何の変化も無く俺を見守っていた。
放り出した本の位置、灰皿代わりの空き缶の位置、脱ぎ捨てられたワイシャツの位置や形状。
変わったことと言えば、CDプレイヤーから流れているのがオリビアじゃなくて10ccだった事と、夜の虹が消えて弱い雨が降り出した事くらいだった。