オリオンは冬の星座だと思われがちだが、常夏の国にもオリオンの夜はある。例えば、バリ島の漆黒の闇に燦然と輝く星座の数々の中で、オリオンより自己主張の強いものは無い。南十字星よりも遥かに強力なインパクトをもって、そこにある。

南の島でそれだから、凍てつく冬を迎える日本の、クリアで美しい星空の主役を飾るオリオンは、もはや向かうところ敵無しの圧倒的存在なのかも知れない。北斗七星よりも、カシオペアよりも、空にある存在の代表は、オリオンなのだ。

そのオリオンが真正面に鎮座する今夜、俺はベランダでバーボンを飲みながら、遠い昔の乏しい記憶を辿った。確か、神話の中のオリオンはこん棒を握っていた筈だ。それは人の頭をぶち割るための武器。天空の彼は勇猛果敢な戦士とみなされていた筈である。だけれど、今一度見上げて見て頂きたい、天空のオリオンの左手には琴座があるのだ。

きっとオリオンは琴を奏でるのだ。

人殺しもするし、音楽に身をゆだねるひと時もある、そんな人物は身の回りに存在しないから、俺はオリオンをどう処理したらいいのか分からない。

我々は法治国家の庇護の下、暮らしている。人殺しを筆頭に粗野な行いを常とするものをコンサバーティブなマジョリティは弾圧するだろう。

でも、それは正解か?

正解はいつも闇の中、それを突き破って自分なりの納得の仕方を習得するのだ、それをオリオンは教えてくれる。

教えに目覚めれば旅が待っている。