数百メートル先の線路を西から東へと貨物列車が通り過ぎ、どこまでも続き、車輪の織り成すきしみが乾いた音を響かせていた。果たして何を運んでいるのか、久しぶりの長い列車で、それはこの距離からみても、遥か西から遥か東までを埋めていた。乾いた打音がいつまでも鳴り響いたが、遠くに点滅する青い光、赤い光あるいは紫色の光を見ながらぼんやり考え事をしていたら、いつの間にか長蛇の列は、遥か東の地の果てに消え去っていた。あれ?いつ通過したのだろう、それが思い出せないのは、俺の考えは別のところを彷徨っていたからに他ならない。遠い遠い遠くから、夢の様な警笛が緩やかな風に乗ってここまで届いた。俺はベランダに置かれた折りたたみ椅子にもたれかかり、雲で覆われた南の空を訳もなく睨みながら、好物のジムビームを飲んだ。一杯、また一杯。

色んな酒を飲んできた。どうも俺にはジムビームがしっくりくる。決して高い酒ではない。そもそも、高いから必ず美味いとも限らない。例えばドンペリは人々が礼賛するほど美味くない。俺だったらスペイン産のカヴァで充分美味く感じるだろうね。

酒は個人的なノスタルジアだ。

アメリカのド田舎出身のハードロッカーは、ジャックダニエルをダースで買い込んで、それをスタジオに持ち込む、という話を聞いたことがある。俺のジムビーム好きには特別な思い出があるわけじゃない、慣れた味が美味い、それだけの話だ。

午後11時50分、いつもの様に高い上空からジェット機の音がした。色んなジェット機が俺の部屋の上空を通過するが、午後11時50分のジェット機の音だけは他のどのジェット機とも違う独特の響き方をする。聞こえ始めはジェット機らしくゴーっと唸るのだが、目の前を通過してしばらくすると、まるで大型レシプロ機の様な、V型多気筒エンジンの様なブーンという低い響きが続くのだ。

あれはどこの国の何という飛行機なのだろう。貨物便だろうか、それとも旅客便か。

俺はいつも、その飛行機に祝杯をあげる。ナイスなエグゾーストノートを聞かせてくれるお礼なのだ。

彼らに知ってもらいたい、貴方の眼下には俺が旅の無事を祈っている事を。乾杯。








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